「自宅の隣の畑に、将来暮らすための家を建てたい」
「所有している田んぼの一部を、駐車場や資材置き場として使いたい」
このように、「自分が所有する農地」を、「農地以外(宅地、施設、駐車場など)」に利用目的を変更する場合に必要となるのが、農地法第4条許可の手続きです。
農地法第4条は、農地の「所有者自身」が行う転用手続きですが、第3条(権利移動)よりもはるかに厳しい審査基準が設けられています。
これは、一度農地を宅地化すると、再び農地に戻すのが極めて困難であり、「優良な農地の保全」という国の根幹に関わる目的があるからです。
この第4条許可を取得するための厳格な手続きを、「許可の壁」を突破するための3つのステップに分けて詳しく解説します。
1. 申請前に行うべき「転用リスク」の診断と立地基準の事前確認プロセス
農地転用4条許可申請は、書類を作成する前に、まず「その土地自体が転用可能な場所なのか」という法的診断を行うことが必須です。
この診断を誤ると、申請書を提出した時点で「門前払い」となります。
いまから4条特有の「立地基準」の壁と、行政書士が最初に行う事前調査について詳述します。
転用許可の可否を決定する「立地基準」の壁
農地法第4条の審査は、主に「立地基準」と「一般基準」の二段構えで行われます。
このうち、立地基準は「その土地の優良性」に応じて、転用を原則禁止する区域を定めています。
| 区分 | 定義 | 転用の可否 | 専門家の対応 |
| 農用地区域(青地) | 農業振興地域内で特に農業利用を目的とする優良な農地。 | 原則不可 | まず「農振除外」の手続きが必要。 これが最大の難関。 |
| 甲種農地・第1種農地 | 非常に優良な集団的農地、または大規模な開発計画の対象地。 | 原則不許可 | 代替地がないこと、公益性が極めて高いことの証明が必要。 |
| 第2種農地 | 農業公共投資の対象となっていない集団的農地。 | 条件付き許可 | 周辺農地への影響が少ないこと、代替地がないことの証明。 |
| 第3種農地 | 市街地化の傾向が強い区域内にある農地。 | 原則許可 | 審査は比較的緩やか。 |
この中で特に問題となるのが、「農用地区域(青地)」内の農地です。
この区域にある農地を転用する場合、農地法の許可申請の前に、まず「農振除外(農業振興地域からの除外)」という、年間に手続き回数や期間が厳しく制限された別個の手続きが必要です。
この農振除外が不可能と判断された時点で、4条許可申請はできません。
行政書士はまず、市町村の都市計画課や農業委員会に相談し、この「農振除外の可能性」を診断することから始めます。
4条転用特有の事前調査:都市計画法との連携
農地法第4条許可は、都市計画法と密接に関連します。
- 市街化区域内の農地(届出制)
- 市街化を積極的に進める区域(市街化区域)内では、原則として転用は許可制ではなく「届出制」となり、比較的簡易な手続きで済みます。
ただし、届出後も農業委員会による審査は行われます。
- 市街化を積極的に進める区域(市街化区域)内では、原則として転用は許可制ではなく「届出制」となり、比較的簡易な手続きで済みます。
- 市街化調整区域内の農地(許可制)
- 市街化を抑制する区域(市街化調整区域)内での転用は、非常に厳しく審査されます。
都道府県知事の許可が必要であり、「その場所でなければならない明確な理由(立地基準の例外規定)」がなければ、原則として不許可となります。
特に、調整区域内での自己用住宅の建設は、都市計画法上の規制(開発許可)も絡むため、専門家による総合的な判断が不可欠です。
- 市街化を抑制する区域(市街化調整区域)内での転用は、非常に厳しく審査されます。
行政書士は、法務局での地目確認に加え、市町村の都市計画課で「当該農地がどの区域に属するか」を特定し、適用される法規制(許可か届出か、開発許可が必要か)を診断します。
このトリプルチェックこそが、無駄な申請を避けるための最重要プロセスです。
2. 審査を突破する「事業計画書」の具体的な記述方法と「代替地なし」の証明
農地法第4条の審査で最も重要視され、かつ申請者が最も記述に苦労するのが、転用の「必要性」と「妥当性」を論証するための事業計画書です。
ここでは、特に審査が厳格化する中で求められる、計画書作成の技術と添付書類の準備について解説します。
厳格な「一般基準」を満たすための事業計画の核心
一般基準とは、立地基準をクリアした農地に対して、転用の目的が農地を潰すに足る合理的理由があるかを審査する基準です。
ここで特に重要となるのは以下の4点です。
- 転用の確実性・資金調達の確実性
- 転用計画(住宅、施設など)が、確実に実現可能であること。
建築確認申請に必要な図面を添付する他、工事費用を賄うための資金調達計画が不可欠です。
自己資金の場合は残高証明書、融資の場合は銀行の融資証明書など、経済的な裏付けを書類で証明する必要があります。
- 転用計画(住宅、施設など)が、確実に実現可能であること。
- 代替地がないことの論証
- 農地法4条許可の審査で最も難しいとされるのが、「代替地がないことの証明」です。
申請地と同じ市町村内で、その目的を満たせる非農地(宅地や山林など)が他に存在しないことを、客観的に論証しなければなりません。- 行政書士は、周辺の不動産情報を調査し、「代替地の候補地では、面積が足りない」「形状が特殊で利用に適さない」「価格が著しく高すぎる」といった比較検討資料を作成し、申請地でなければならない唯一性を主張します。
- 農地法4条許可の審査で最も難しいとされるのが、「代替地がないことの証明」です。
- 必要最小限の面積であることの証明
- 転用する面積が、計画施設の敷地として必要最小限であることを証明します。
例えば、平屋の自宅を建てるのに広い農地を転用しようとすると、「庭や駐車場は非農地で賄えないのか?」と指摘されます。
敷地配置図や面積計算書を詳細に作成し、計画と面積に矛盾がないことを示します。
- 転用する面積が、計画施設の敷地として必要最小限であることを証明します。
周辺農地への影響と同意書(水の壁)
4条転用では、水利、日照、排水など、周辺の営農環境に悪影響を及ぼさないことが強く求められます。
- 水利組合・土地改良区の同意
- 農地は水路で繋がっています。
転用によって水路の利用や排水に支障が出る可能性がある場合、管轄の水利組合や土地改良区の同意書の提出が必須となります。
この同意を得るためには、転用後の排水処理計画(雨水の処理、側溝への接続など)を具体的に示し、理解を求める必要があります。
地元の組合との交渉は難航することが多く、専門家による仲介が不可欠です。
- 農地は水路で繋がっています。
- 公共施設の管理者の同意
- 農道や公共の側溝、水路に接続する場合、その管理者の同意書が必要です。
添付書類の準備と複雑な図面作成
4条許可には、登記簿謄本や公図といった基本書類に加え、事業計画の具体性を示す以下の書類が求められます。
| 必須書類 | 内容 |
| 事業計画書 | 転用の目的、資金、代替地検討結果などを詳述。 |
| 土地利用計画図 | 転用部分と農地部分の境界、計画施設の配置図。 |
| 資金証明書類 | 融資証明書、残高証明書など。 |
| 排水計画図 | 雨水や生活排水の処理方法を明記。 |
| 同意書各種 | 水利組合、土地改良区、公共施設管理者などの同意書。 |
これらの図面や計画書は、専門知識がないと作成が難しく、不備による補正指導で大幅に時間が浪費されます。
3. 申請後の審査フローと「転用着手」までの最終手続き
書類提出後の審査フローは、都道府県知事(または指定された市町村長)の許可を得るための行政プロセスとなります。
ここでは、申請後の流れ、現地調査の厳格性、そして許可後の工事着手から地目変更登記完了までの最終ステップについて解説します。
申請から許可指令までの行政審査プロセス
4条許可の申請書は、農業委員会を経由して都道府県知事等に提出され、最終的な決定が下されます。
- 申請書の提出
- 各市町村の農業委員会事務局に提出します。
この時点が、自治体が定める「締切日」となります。締切日を逃すと、審査が翌月回しとなります。
- 各市町村の農業委員会事務局に提出します。
- 農業委員会の意見書添付
- 農業委員会は、現地調査や総会を経て、申請書に「意見書」を添付し、知事へ進達します。
農業委員会の意見は、知事の許可判断に大きな影響を与えます。
- 農業委員会は、現地調査や総会を経て、申請書に「意見書」を添付し、知事へ進達します。
- 都道府県庁(または知事権限を有する市町村)での審査
- 県の農政担当課などで、立地基準、一般基準に照らした詳細な審査が行われます。
ここで、都市計画法やその他の法規制との整合性が確認されます。
- 県の農政担当課などで、立地基準、一般基準に照らした詳細な審査が行われます。
- 許可指令書の交付
- 審査期間は自治体によって異なりますが、標準処理期間は概ね6週間~8週間程度です。
許可が下りると、申請者に対して許可指令書が交付されます。
- 審査期間は自治体によって異なりますが、標準処理期間は概ね6週間~8週間程度です。
許可後の工事着手と地目変更登記の完了報告
許可指令書を受け取ったからといって、すぐに工事を始めて良いわけではありません。
- 工事着手届の提出
- 許可書交付後、実際に工事に着手する前に、工事着手届を農業委員会に提出しなければなりません。
これは、許可を受けた計画通りに工事が行われることを行政が把握するための手続きです。
- 許可書交付後、実際に工事に着手する前に、工事着手届を農業委員会に提出しなければなりません。
- 完了報告書の提出と地目変更登記
- 転用工事が完了した際にも、農業委員会に完了報告書を提出し、工事が完了したことを届け出ます。
この完了報告が受理されると、その土地は現況が農地ではないと認められます。
その上で、法務局にて地目を「田・畑」から「宅地」や「雑種地」などの転用後の地目へ変更する地目変更登記が必要です。
この登記手続きは土地家屋調査士の業務となりますが、行政書士は、この一連の作業が円滑に進むよう専門家間での連携を行います。
- 転用工事が完了した際にも、農業委員会に完了報告書を提出し、工事が完了したことを届け出ます。
専門家による「ワンストップサポート」の必要性
農地転用4条許可は、農地法だけでなく、都市計画法、建築基準法、水利慣行など、複数の法律や慣習が絡み合う複雑な手続きです。
「自分でできるだろう」と安易に考えて申請し、事業計画書や代替地証明の不備で不許可処分を受けたり、農振除外に失敗したりするケースは後を絶ちません。
一度不許可となると、再申請のハードルは極めて高くなります。
当事務所にご依頼いただくことで、農振除外の可能性診断から、厳しい立地基準・一般基準をクリアするための論理的な事業計画書の作成、水利組合との交渉、そして許可後の工事着手届・完了報告に至るまで、転用事業全体を円滑に進めるための確実なサポートを提供します。
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まずは、あなたが計画されている農地が「転用可能な土地なのか」どうか、専門家にご相談ください。

