「農地を買って農業を始めたい」
「親の農地を名義変更したい」
このように、農地を農地のまま売買したり貸し借りしたりする場合、必ず農地法第3条に基づく農業委員会の許可が必要です。
農地法第3条の許可手続きは、単に「申請書を提出する」だけでは終わりません。
事前の綿密な調査と、農業委員会の審査基準を満たすための「営農計画」の論理的な構築、そして許可後の法務局での登記まで、一連の流れを正確に管理する必要があります。
許可なく契約を結んでも、その契約は無効となり、お金を払っても所有権は手に入りません。
この複雑な手続きの流れを、専門家として最も重要視する3つのステップに分けて詳しく解説します。
1. 申請前に行うべき「事前準備」と「不許可リスク」
農地法第3条許可申請において、最も手間と専門性を要するのが、書類提出前の「事前準備」です。
この段階でリスクを洗い出し、適切な対策を講じなければ、何度申請しても時間と費用を浪費することになります。
徹底的な権利関係と現地状況の調査(不許可リスクの排除)
許可が下りない最大の原因は、申請者(譲受人)の要件不足ではなく、「土地そのものに問題がある」ケースです。
まずは法務局と現地での調査が不可欠です。
- 土地の所有権・相続関係の確認
- 法務局で登記簿謄本を取得し、売主が本当にその農地の所有者であるかを確認します。
特に高齢の売主の場合、登記名義が「亡くなった先代」のままになっていることが多々あります。
この場合、まずは売主側で相続登記を完了させなければ、3条申請は不可能です。
行政書士は、この相続関係の整理(必要に応じて司法書士と連携)からサポートします。
- 法務局で登記簿謄本を取得し、売主が本当にその農地の所有者であるかを確認します。
- 地目と現況の確認
- 登記簿上の地目が「畑」や「田」であっても、現況が砂利敷きの駐車場や、許可なく建てられた小屋(物置)の敷地になっている場合があります。
これらは「違反転用」状態であり、違反状態が是正(撤去・農地への復元)されるまで、原則として新規の3条許可は下りません。
この隠れたリスクを見抜くことが、事前調査の核心です。
- 登記簿上の地目が「畑」や「田」であっても、現況が砂利敷きの駐車場や、許可なく建てられた小屋(物置)の敷地になっている場合があります。
- 境界の確定と公図との照合
- 公図(地図)を取得し、申請地の境界線が現地で明確になっているかを確認します。
隣地との境界が曖昧な農地は、将来的なトラブルの原因となり、許可が難しくなることがあります。
- 公図(地図)を取得し、申請地の境界線が現地で明確になっているかを確認します。
「全部効率利用要件」を満たすための現地診断
農地法第3条許可では、申請者(譲受人)が所有するすべての農地を効率的に利用できることが求められます。
- 耕作放棄地の有無
- 申請者が他の地域に農地を所有しており、その一部が耕作放棄地(草木が生い茂った状態)になっていれば、新たな農地取得は許可されません。
まずは、その耕作放棄地の復元計画を立てるか、非農地証明を取得して地目変更を行うなどの是正措置が必要です。
- 申請者が他の地域に農地を所有しており、その一部が耕作放棄地(草木が生い茂った状態)になっていれば、新たな農地取得は許可されません。
- 通作距離と手段の確認
- 自宅から申請地までの距離が日常的な管理に支障がないかを確認します。
特に遠隔地からの申請の場合、「週末しか通えない」といった計画では、効率的な利用は困難と判断されます。
行政書士は、その距離を埋めるための具体的な対策(現地の受委託契約など)を計画書に盛り込むことで、要件を満たします。
- 自宅から申請地までの距離が日常的な管理に支障がないかを確認します。
農業委員会事務局・委員への事前相談の進め方
農地法の手続きは、行政指導の色が濃く出ます。
書類提出前に、必ず管轄の農業委員会事務局に相談し、申請予定地の法的な区域区分(農業振興地域か否かなど)や、その自治体独自のローカルルール(下限面積撤廃後の審査の重点など)を確認することが、手続きを円滑に進めるための必須技術です。
行政書士は、単なる相談で終わらせず、実務担当者や地区担当の農業委員に対し、申請の趣旨と計画の実現可能性を事前に説明し、理解を求めるための「根回し」を行います。
2. 申請書類の作成と「営農計画」の具体的な記述方法(常時従事要件の攻略)
手続きにおいて、事前準備の次に重要なのが、審査員(農業委員)を納得させる「申請書類」の作成です。
特に、農地法第3条許可では「営農計画書」が合否を左右する最重要書類となります。
ここでは審査の核心である「常時従事要件」をクリアするための具体的な記述方法を中心に解説します。
審査を突破する「営農計画書」作成の技術
営農計画書は、申請者が「どれだけ本気で、かつ論理的に農業に取り組めるか」を証明するためのプレゼンテーション資料です。
単に「野菜を作ります」と書くだけでは不十分です。
- 常時従事要件(年間150日相当)の論理的証明
- 多くの農業委員会では、申請者(または世帯員)が農作業に年間150日以上従事することが審査の目安とされています。
しかし、兼業農家やサラリーマン農家志望者は、暦上の日数が足りません。- 記述テクニック
- 労働時間を細分化します。
「平日早朝の1時間半 × 年200日」と「休日の終日作業 × 年50日」というように、具体的な時間の積み上げを示し、「トータルで150日相当の労働力を確保できる」ことを論理的に記述します。
さらに、選定した作物(例:手間のかからない果樹や芋類)が、その労働時間で管理可能であることを、専門資料を引用しつつ裏付けます。
- 労働時間を細分化します。
- 記述テクニック
- 多くの農業委員会では、申請者(または世帯員)が農作業に年間150日以上従事することが審査の目安とされています。
- 収支計画と資金調達の具体性
- 「無計画な投機ではない」ことを証明するため、初期投資(機械購入費)、年間経費(肥料、農薬)、予想売上(自家消費分も含む)を具体的に示します。
行政書士は、この収支計画に無理がないか、また農業経営を継続するための資金(自己資金や融資)が適切に確保されていることを、残高証明書などと整合性を取って証明します。
- 「無計画な投機ではない」ことを証明するため、初期投資(機械購入費)、年間経費(肥料、農薬)、予想売上(自家消費分も含む)を具体的に示します。
- 技術習得計画
- 新規就農の場合、「どうやって農業技術を学ぶのか」という点も重要です。
地元の農業学校への通学、農家の研修受入、インターネットや書籍での学習計画など、具体的な技術習得の道筋を示すことで、審査員に「この人なら大丈夫だ」という信頼感を与えます。
- 新規就農の場合、「どうやって農業技術を学ぶのか」という点も重要です。
添付書類の準備と「提出期限」の管理
申請書一式には、以下の公的書類の添付が必須であり、すべて最新の情報で揃える必要があります。
| 必須書類 | 取得先 | 注意点 |
| 登記事項証明書 | 法務局 | 発行から3ヶ月以内のもの。古いものは無効。 |
| 公図・地図 | 法務局、市町村役場 | 申請地を赤枠で囲い、隣接地との関係を明確に示す。 |
| 住民票 | 市町村役場 | 申請者の現住所を証明。 |
| 耕作証明書 | 申請地以外の農業委員会 | 申請者が他の市町村で耕作している場合に必要。 |
特に、毎月の申請締切日は厳守しなければなりません。
多くの自治体では締切が月に一度(10日や20日など)に定められており、1分でも遅れると翌月の審査に回され、許可が1ヶ月遅延します。
農地の契約や作付け計画に大きな影響を与えるため、行政書士は常に締切を意識したスケジュール管理を行います。
3. 申請後の審査フローと「許可受領・登記」までの最終手続き
書類の提出が完了した後も、手続きは続きます。
ここでは、申請後の審査プロセス、そして法的な権利確定に至るまでの最終ステップについて解説します。
許可が下りた後の登記手続きまで含めてサポートできるかどうかが、行政書士の専門性の見せ所です。
申請後の審査プロセスと現地調査への対応
申請書が提出されると、主に以下のステップで審査が進みます。
- 書類審査と追加資料の要求
- 農業委員会事務局の担当者が、まず書類の形式的な不備や内容の矛盾がないかを確認します。
ここで営農計画が不十分と判断されると、「補正」を求められます。補正対応が遅れると、審査は長期化します。
- 農業委員会事務局の担当者が、まず書類の形式的な不備や内容の矛盾がないかを確認します。
- 現地調査の実施
- 農業委員や農地利用最適化推進委員が、実際に農地を訪問し、申請内容(通作距離、周囲の環境、耕作可能性)と現地が一致するかを確認します。
行政書士は、この現地調査に立ち会い、委員からの質問に対してスムーズに回答できるよう、事前に申請者をサポート・準備します。
特に、境界や水利に関する質問に即答できる準備が必要です。
- 農業委員や農地利用最適化推進委員が、実際に農地を訪問し、申請内容(通作距離、周囲の環境、耕作可能性)と現地が一致するかを確認します。
- 農業委員会総会による審議
- 現地調査と書類審査を経て、月に一度開催される農業委員会総会で最終的な許可・不許可が決定されます。
申請から総会までは、自治体により異なりますが、標準処理期間は概ね4週間程度とされています。
- 現地調査と書類審査を経て、月に一度開催される農業委員会総会で最終的な許可・不許可が決定されます。
許可指令書の受領と「仮登記」のリスク回避
総会で許可が決定されると、数日後に「許可指令書」が発行されます。
しかし、ここで手続きは終わりではありません。
- 許可指令書の法的意味
- この指令書は、「この売買/貸借契約は、農地法上有効である」という公的な証明書です。
- 「無効な契約」のリスク
- 農地法3条許可は、契約の「効力発生要件」です。
許可が下りる前に代金を支払い、仮登記をしてしまうケースがありますが、もし不許可となった場合、本登記は永久にできず、売買契約自体が無効となります。
買主は代金を返してもらう権利はありますが、法的紛争に巻き込まれるリスクが残ります。
- 農地法3条許可は、契約の「効力発生要件」です。
最終ステップ:所有権移転登記(司法書士との連携が必要)
許可指令書を受領しただけでは、まだ農地の所有権は売主の名義のままです。
- 登記申請の必要性
- 所有権を買主に移すためには、許可指令書を添付して法務局へ「所有権移転登記」を申請する必要があります。
- 専門家連携
- この登記手続きは、行政書士ではなく司法書士の独占業務です。
必要な場合は当事務所では、農地法許可申請の専門家として、司法書士へスムーズに連携します。
- この登記手続きは、行政書士ではなく司法書士の独占業務です。
農地法3条の手続きでお悩みの方
農地法第3条許可の手続きは、書類作成の難しさもさることながら、事前調査によるリスク管理、関係者との調整、そして厳格なスケジュール管理が成功の鍵を握ります。
「自分で調べたが、書類の書き方がわからない」
「申請が遅れて、作付けの時期を逃したくない」
「過去に不許可になった経験があるため、プロに頼んで確実に許可を取りたい」
このようなお悩みをお持ちであれば、ぜひ当事務所にご相談ください。
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