農地転用4条届出の完全ガイド|市街化区域の畑に家を建てる「最短ルート」と専門家が教える「落とし穴」
「実家の敷地内にある畑を宅地にして、子供の家を建てたい」
「所有している市街化区域内の農地を、駐車場にして有効活用したい」
あなたが今、このような計画をお持ちで、その農地が都市計画法上の「市街化区域」にあるならば、行うべき手続きは「農地法第4条の届出」です。
インターネットで検索すると「許可」や「5条」といった複雑な言葉が出てきて混乱するかもしれませんが、条件が合致すれば、許可よりもはるかに早く、簡便な「届出」だけで工事に着手できる特例的な手続きです。
しかし、行政書士として強く警告しておかなければならないことがあります。
「届出だから、紙を出せば終わりでしょ?」という油断が、最大の敵です。
実は、4条届出は「簡単」なのではなく、「形式審査が厳格」なのです。
書類上の不備があれば即座に不受理となりますし、何より農地法以外の法律(都市計画法や建築基準法、土地改良法)とのパズルが噛み合っていなければ、せっかく届出を受理されても、肝心の家が建てられないという事態に陥ります。
この記事では、農地実務に精通した専門家が、全国どこでも通用する4条届出の基礎知識から、自治体ごとに異なるルールの調べ方、そしてプロしか知らないリスク回避術までを徹底的に解説します。
1. 「農地転用4条届出」の正体とは?許可との違いと適用条件の完全理解
農地法第4条届出は、都市計画法で線引きされた「市街化区域」における特権的な手続きです。
まずは、自分がこの手続きの対象者なのか、そしてなぜ「許可」ではなく「届出」で済むのか、その法的な背景と仕組みについて深く掘り下げます。
「自分の農地」を「市街化区域」で転用する場合の特権
農地法は原則として「農地を農地以外にすること(転用)」を厳しく規制しており、通常は都道府県知事等の「許可」が必要です。
しかし、都市計画法で定められた「市街化区域」に限っては、「ここは優先的に市街化(宅地化)を進めるエリアですよ」と国が定めているため、農地法の規制が大幅に緩和されています。
【4条届出が適用される3つの絶対条件】
以下の3つすべてに当てはまる場合のみ、今回の「4条届出」の対象となります。
- 場所
- 都市計画法上の「市街化区域」にあること日本の都市計画区域は、主に「市街化区域(街を作る場所)」と「市街化調整区域(農地を守る場所)」に分かれています。
あなたの農地が、都市計画図の線引きで「市街化区域」の内側にあることが大前提です。
これが調整区域であれば、「許可」が必要となり、手続きの難易度は跳ね上がります。
- 都市計画法上の「市街化区域」にあること日本の都市計画区域は、主に「市街化区域(街を作る場所)」と「市街化調整区域(農地を守る場所)」に分かれています。
- 人
- 農地の「所有者自身」が転用すること「自分の畑に、自分の家を建てる」「自分の畑を、自分が経営する駐車場にする」場合です。
もし、「他人の畑を買って家を建てる」のであれば、それは「5条届出」になります。
- 農地の「所有者自身」が転用すること「自分の畑に、自分の家を建てる」「自分の畑を、自分が経営する駐車場にする」場合です。
- 行為
- 農地を「農地以外」にすること宅地、駐車場、資材置き場、道路、太陽光パネル用地など、農作物を耕作しない状態にすることです。
農業委員会への「届出」が持つ法的意味とリスク
「届出」とは、行政に対して「こういう行為をしますよ」と知らせる行為です。
「許可」のように行政側の裁量(良いか悪いかの判断)が入る余地は原則としてありません。
要件さえ整っていれば、行政はそれを受け付けなければならない(受理しなければならない)という性質を持っています。
しかし、これは「審査がない」という意味ではありません。
「形式審査」と呼ばれる、書類上の整合性を徹底的にチェックする関門があります。
- 登記簿上の面積と、届出書の面積が一致しているか?
- 添付された図面(公図・案内図・配置図)に矛盾はないか?
- 申請者の印鑑や住所の記載に誤りはないか?
多くの自治体の農業委員会では、これらの形式要件にわずかでも不備があれば、窓口で「不受理(受け付けない)」として返却されます。
受理されなければ、法的には農地のままですから、工事に着手することは違法行為(無断転用)となります。
「届出だから簡単」なのではなく、「届出だからこそ、書類の正確性が命」なのです。
注意すべき「生産緑地」と「農地バンク」
市街化区域内であっても、無条件で転用できるわけではありません。
以下のケースは特に注意が必要です。
- 生産緑地地区の指定
- 三大都市圏や地方の中核都市などでは、市街化区域内でも緑地保全のために「生産緑地」に指定されている農地があります。
この看板が立っている農地は、原則として転用できません。
4条届出を出す前に、まず生産緑地の「買取申出」や「指定解除」の手続きが必要になります。
これを見落として届出を出しても、即座に却下されます。
- 三大都市圏や地方の中核都市などでは、市街化区域内でも緑地保全のために「生産緑地」に指定されている農地があります。
- 農地中間管理機構(農地バンク)への貸出
- もし、その農地を過去に農地バンク等を通じて貸し出していた履歴がある場合、合意解約の手続きが完了しているか確認が必要です。
契約が残ったままでは、所有者自身であっても勝手に転用することはできません。
- もし、その農地を過去に農地バンク等を通じて貸し出していた履歴がある場合、合意解約の手続きが完了しているか確認が必要です。
「許可」と「届出」のスケジュール感の違い
一般的な農地転用許可(調整区域など)は、毎月「10日締め」や「25日締め」といった締切日があり、そこから審査を経て許可が下りるまで約1ヶ月〜2ヶ月かかります。
一方、4条届出は多くの自治体で随時受付(または週単位の締切)を行っており、標準処理期間(受理通知書が出るまでの期間)は、提出から概ね1週間〜2週間程度です。
このスピード感こそが最大のメリットです。
しかし、建築会社との契約や着工スケジュールを組む際、この期間を正確に計算に入れておく必要があります。
「即日もらえる」と勘違いしていると、着工遅れの原因になります。
2. 申請手続きと必要書類の収集
手続きの概要を理解したところで、次は実務的なステップに入ります。
行政書士が普段行っている業務フローを公開します。
自治体によって様式(フォーマット)は異なりますが、基本的な流れは全国共通です。
Step 1:事前調査(役所・法務局)
いきなり書類を書くのはNGです。まずは「情報の確定」を行います。
- 都市計画課(市町村役場)での確認
- 対象の農地が確実に「市街化区域」に入っているかを確認します。
特に、市街化区域と調整区域の境界線(線引き)ギリギリにある土地の場合、筆の一部だけが区域外になっていることもあります。
また、用途地域を確認し、建てたい建物が建築基準法上、建築可能かも併せてチェックします。
- 対象の農地が確実に「市街化区域」に入っているかを確認します。
- 法務局での資料取得:
- 登記事項証明書(全部事項証明書)
- 誰の名義か、面積は正確にいくつかを確認します。発行から3ヶ月以内のものが必要です。
- 公図(地図)
- 隣地との位置関係を確認します。
- 地積測量図
- あれば取得し、正確な寸法を把握します。
- 登記事項証明書(全部事項証明書)
Step 2:必要書類の作成と収集
管轄の農業委員会に提出する書類を作成します。
主な書類は以下の通りですが、自治体によって追加書類(資金証明など)を求められることがあるため、必ず事前に手引きを確認するか専門家に依頼してください。
【4条届出 一般的な必須書類セット】
| 書類名 | 解説・注意点 |
| 農地法第4条第1項第7号の規定による農地転用届出書 | 各市町村農業委員会の所定様式を使用。 通常2部(正本・副本)提出。 実印または認印(自治体による)。 |
| 土地の登記事項証明書 | 原本(全部事項証明書)。 発行3ヶ月以内。 |
| 位置図(案内図) | 住宅地図の写し等に、申請地を赤色で表示し、最寄り駅や公共施設からの位置関係を示す。 |
| 公図の写し | 法務局で取得したもの。申請地を赤色で囲み、隣接地の地目・所有者を記入する場合もある。 |
| 配置図(土地利用計画図) | 建物の配置、排水設備、駐車場等の位置を図示したもの。転用面積の根拠となる重要書類。 |
| 委任状 | 行政書士に依頼する場合のみ必要。 |
※自治体によっては、「住民票の写し」「資金証明書(残高証明など)」「隣接農地の同意書」「土地改良区の意見書」「水利代表者からの同意書」などが別途必要になる場合があります。
Step 3:届出書の記入
届出書には、以下の項目を記入しますが、曖昧な記述は補正(書き直し)の対象になります。
- 転用目的
- 「住宅用地」「駐車場」「資材置き場」など明確に。
- 転用の時期
- 「工事着手予定日」と「工事完了予定日」を書きます。
ここで注意すべきは、届出提出日より前の日付(過去の日付)を書かないことです。
過去の日付を書くと、「すでに無断で工事をしている(無断転用)」とみなされ、始末書の提出や是正指導を受けることになります。
必ず提出予定日の1〜2週間後以降の日付を設定します。
- 「工事着手予定日」と「工事完了予定日」を書きます。
- 転用面積
- 登記簿の地積と完全に一致させます。
一部分だけ転用する場合は、分筆登記をしてから届出をするか、実測図を添付して「一部転用」として申請するかの判断が必要です(一般的には分筆が推奨されます)。
- 登記簿の地積と完全に一致させます。
Step 4:農業委員会への提出と受理
書類が揃ったら、農地が所在する市町村の農業委員会事務局へ提出します。
- 提出先
- 市役所本庁舎内の農業委員会事務局、または各支所の担当窓口。
- 受付
- 窓口で担当者が書類の不備を確認します。
問題なければ受け付けられ、事務処理に入ります。
- 窓口で担当者が書類の不備を確認します。
- 受理通知書の交付
- 申請から1週間〜2週間後、連絡があります。
窓口に取りに行くか、郵送で「受理通知書」を受け取ります。
- 申請から1週間〜2週間後、連絡があります。
【重要:受理通知書は「権利証」と同じくらい大事】
この受理通知書は、転用許可証の代わりとなる公文書です。
- 建築確認申請の添付書類として
- 住宅ローンの融資実行条件として
- 地目変更登記(農地→宅地)の添付書類として今後の手続きで必ず原本が必要になります。
再発行は非常に手間がかかる(またはできない)ため、厳重に保管してください。
3. 「3つの落とし穴」と行政書士に依頼すべき理由
「届出なら自分でできそう」と思われたかもしれません。
確かに、単純な案件であればご自身で行うことも可能です。
しかし「自分でやろうとして、他の法律に抵触し工事がストップしたケース」もありえます。
農地法4条届出は、単独で完結するものではなく、都市計画法や土地改良法と連動しています。
ここでは、素人判断が招く危険なリスクと、専門家に依頼することで得られるメリットについて解説します。
リスク①:開発許可(都市計画法29条)の「面積基準」の罠
これが最も恐ろしい落とし穴です。
農地法4条届出は、あくまで「農地法」の手続きです。
しかし、転用する面積が一定規模以上で、かつ土地の区画形質の変更(造成工事など)を伴う場合、「都市計画法第29条の開発許可」が必要になります。
- 全国的な基準
- 原則として1,000㎡以上の開発行為。
- 【超重要】自治体ごとの上乗せ規制
- 三大都市圏や政令指定都市、中核市などでは、条例によってこの基準が500㎡以上に引き下げられているケースが非常に多いです(例:岡山市、仙台市など)。
さらに、一部の自治体では300㎡以上で許可が必要な場合もあります。
- 三大都市圏や政令指定都市、中核市などでは、条例によってこの基準が500㎡以上に引き下げられているケースが非常に多いです(例:岡山市、仙台市など)。
もし、あなたが600㎡の広い畑を持っていて、「国の基準は1000㎡だから届出だけでいい」と自己判断し、条例で500㎡規制がある地域で工事を始めたとします。
すると、都市計画法違反で工事停止命令を受けます。
4条届出と開発許可はセットで考える必要があり、開発許可が必要な場合は、その許可が下りる見込みがなければ農地転用の届出も受理されません。
この「法律のパズル」を解くには、その地域の条例を熟知した専門知識が必要です。
リスク②:土地改良区(水利組合)への「決済金」対応漏れ
市街化区域であっても、その農地が「土地改良区(土改)」の受益地(エリア内)であるケースは多々あります。
土地改良区のエリア内にある農地を転用する場合、農地法の手続きとは別に、以下の手続きが必要です。
- 農地転用等の通知・意見書交付願い
- 地区除外申請および決済金(除外決済金)の支払い
これを無視して勝手に農地を埋め立てると、水路の管理に支障が出るとしてトラブルになったり、後から高額な決済金を請求されたりします。
決済金の額は、1㎡あたり数百円〜数千円と地域や改良区によって全く異なります。
行政書士は、事前調査の段階で「土地改良区のエリア内か?」「いくらかかるのか?」を特定し、農地転用届出と並行してこれらの調整を行います。
リスク③:完了後の「地目変更登記」忘れと融資トラブル
農地転用届出が受理され、家が建ちました。
しかし、登記簿を見ると地目は「畑」のまま…。
これでは、銀行の住宅ローンの最終実行(融資)が下りない可能性があります。
銀行は「宅地」になっていることを条件に融資を行うケースが多いためです。
転用工事が完了し、現況が宅地になったら、速やかに法務局へ「地目変更登記」を申請しなければなりません。
この「地目変更登記」の申請代行は土地家屋調査士が行います。
お客様は「やりっぱなし」になるリスクを防げます。
行政書士に依頼するメリット:それは「確実な着工日」を買うこと
家を建てる、店を開くというプロジェクトにおいて、最も避けたいのは「スケジュールの遅延」です。
ご自身で申請して、書類不備で何度も役所に足を運び、開発許可の要不要で担当課をたらい回しにされていると、あっという間に1ヶ月、2ヶ月が過ぎてしまいます。
その間、建築業者は待機し、資材価格は高騰し、事業計画は狂ってしまいます。
当事務所にご依頼いただく最大のメリットは、「時間の短縮」と「手続きの完遂」です。
- 徹底した事前調査
- 開発許可、土地改良区、生産緑地の有無を総合的に診断し、手戻りを防ぎます。
- 完璧な書類作成
- 形式不備による不受理をゼロにし、最短期間での受理を目指します。
- 役所との折衝
- 窓口での細かい指摘や、自治体独自のローカルルールにも、専門用語で即座に対応・解決します。
【農地転用の手続きは、専門家へ】
当事務所は、特定の地域に限らず、農地法の原理原則と各自治体の条例を照らし合わせ、最適な申請サポートを提供しております。
特に、4条届出のようなスピードが求められる案件こそ、法的な落とし穴を事前に塞ぐことができる専門家にお任せください。
「自分の土地の場合、開発許可は必要なのか?」
「農地バンクの手続きはどうすればいいのか?」
まずは、お客様の状況を整理し、最適な手続きプランをご提案するための初回無料相談をご利用ください。
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