「気に入った農地があるが、購入してすぐに自宅を建てたい」
「他人の農地を買収し、店舗や工場を建設する事業計画がある」
このように、「他人が所有する農地」を買い取り(権利移動)、その上で「農地以外(宅地、施設など)」に利用目的を変更する場合に必要となるのが、農地法第5条許可の手続きです。
農地法第5条許可は、農地法における手続きの中で最も複雑で難易度が高いとされます。
なぜなら、第3条の「権利移動」と第4条の「転用」の両方の要素を併せ持ち、「買主の事業計画」と「土地の優良性」の両面から、審査を受けることになるからです。
いまから、この5条許可を取得するための厳格な手続きの流れと、行政書士がどのように法的リスクを管理し、安全に所有権を移転させるかについて詳しく解説します。
1. 申請前に行うべき「5条特有」の法的リスク診断と「契約無効」の回避策
農地法第5条許可は、単に土地の利用目的を変えるだけでなく、「売買」という権利の移転を伴います。
そのため、許可が下りなければ、当事者間で結んだ契約自体が無効となるという、不動産取引上最大の法的リスクを抱えています。
ここから、この複合的なリスクを診断し、回避するための事前プロセスについて詳述します。
「許可なき契約は無効」という最大のリスクと回避策
農地法第5条は、「知事等の許可を受けなければ、農地を農地以外の目的で譲り渡すことはできない」と定めています。
- リスクの正体
- 許可が出る前に、当事者間で売買契約を結び、代金(手付金を除く)を支払ってしまった場合、もし不許可になれば契約は無効となり、金銭返還を巡る民事紛争に発展するリスクがあります。
このリスクを回避するために、契約書に「農地法第5条の許可を停止条件とする」という特約を明記した停止条件付き売買契約書を作成し、決済(残金支払い)は許可書交付後に行うことを徹底します。
- 許可が出る前に、当事者間で売買契約を結び、代金(手付金を除く)を支払ってしまった場合、もし不許可になれば契約は無効となり、金銭返還を巡る民事紛争に発展するリスクがあります。
- 契約当事者の権利関係の確認
- 売主側の権利関係の確認は必須です。
特に、売主が相続によって土地を取得しているにもかかわらず、登記名義が「亡くなった親」のままになっている(相続未登記)場合、売主は正式な所有権を主張できません。
この場合、5条申請の前に、売主側に相続登記を完了させる必要があります。
これが滞ると、許可が下りても登記ができないという事態に陥ります。
- 売主側の権利関係の確認は必須です。
4条の「立地基準」と売主の「権利移動」に関する複合審査
5条許可申請では、土地の優良性を見る「立地基準」審査(4条の要素)がそのまま適用されます。
- 優良農地の転用制限
- 土地が農用地区域(青地)や甲種農地・第1種農地に該当する場合、転用は原則として不可能です。
これらの農地を転用するには、まず「農振除外(農業振興地域整備計画からの除外)」という、年間に数回しかチャンスがない手続きを経て、その上で5条許可申請に進む必要があります。
行政書士は、申請前に市町村の都市計画課・農業委員会へ相談し、この農振除外の可能性を確認します。
- 土地が農用地区域(青地)や甲種農地・第1種農地に該当する場合、転用は原則として不可能です。
- 違反転用の有無
- 売主が過去に無許可で農地の一部を駐車場や資材置場として使用していた(違反転用)場合、その違反状態が是正されるまで、5条許可申請は受付られません。
行政書士は、現地調査でこの違反転用の痕跡をチェックし、売主側に是正(復元)を指導します。
- 売主が過去に無許可で農地の一部を駐車場や資材置場として使用していた(違反転用)場合、その違反状態が是正されるまで、5条許可申請は受付られません。
地域の合意形成(水利権者等)の事前準備
4条許可と同様に、5条転用後も周辺の農地環境に影響を与えないことが求められます。
特に水田の場合、水利組合や土地改良区への影響は甚大です。
行政書士は、申請前に水利組合や隣接農家との合意形成を仲介し、「転用後の排水計画」や「水路への影響がないこと」を具体的に説明し、同意書を確実に取得します。
この地域の合意なくして、5条許可は下りません。
2. 審査を突破する「事業計画書」と「停止条件付き契約書」の具体的な作成技術
農地法第5条許可の審査を突破するためには、「なぜその農地でなければならないのか」という土地の必然性と、「事業を確実に遂行できるのか」という資金の確実性を、事業計画書によって論理的に証明する必要があります。
ここでは、複合審査をクリアするための書類作成の技術を解説します。
必須要件:「代替地がないこと」の論証と「資金の確実性」の証明
第5条許可で最も厳しい審査を受けるのが、以下の2点に関する一般基準です。
- 代替地のないことの証明
- 「この事業計画(住宅建設、店舗経営など)を遂行する上で、申請地と同じ市町村内に、目的を達成できる非農地(宅地や山林など)が他に存在しないこと」を客観的に論証しなければなりません。
- 行政書士は、周辺の非農地の不動産情報を調査し、代替地の候補地では「面積が足りない」「形状が特殊すぎる」「公共施設へのアクセスが極めて困難である」「価格が著しく高額で採算が合わない」といった比較検討資料を作成します。
これにより、申請地でなければならない地理的・事業的な唯一性を主張します。
- 行政書士は、周辺の非農地の不動産情報を調査し、代替地の候補地では「面積が足りない」「形状が特殊すぎる」「公共施設へのアクセスが極めて困難である」「価格が著しく高額で採算が合わない」といった比較検討資料を作成します。
- 「この事業計画(住宅建設、店舗経営など)を遂行する上で、申請地と同じ市町村内に、目的を達成できる非農地(宅地や山林など)が他に存在しないこと」を客観的に論証しなければなりません。
- 資金調達の確実性
- 事業計画の確実性を担保するため、転用工事に必要な資金が確保されていることを証明する必要があります。
自己資金の場合は、申請日から遡って一定期間の残高証明書を添付します。銀行融資を受ける場合は、銀行からの融資証明書または融資内定通知書が必要です。
「これからお金を貯める」といった計画では、確実性がないと判断され不許可となります。
- 事業計画の確実性を担保するため、転用工事に必要な資金が確保されていることを証明する必要があります。
5条特有の最重要添付書類:「停止条件付き売買契約書」
前述した法的リスクを回避しつつ、手続きを進めるために、行政書士が作成する売買契約書は一般的な契約書とは異なります。
- 契約書の機能
- 契約書には、「本契約は、農地法第5条の許可を停止条件として効力を生じる」という文言を必ず明記します。
これにより、許可が下りるまでは契約の効力は発生せず、売主も買主も法的拘束力が限定されます。
万が一不許可となった場合でも、契約が自動的に無効となるため、複雑な紛争を避けることができます。
- 契約書には、「本契約は、農地法第5条の許可を停止条件として効力を生じる」という文言を必ず明記します。
- 資金決済と登記の時期の明記
- 契約書には、「決済(残金支払い)および所有権移転登記は、農地法第5条の許可指令書が交付された後、〇日以内に行う」という条項を明確に盛り込みます。
この条項が、買主の資金の安全を担保する根拠となります。
- 契約書には、「決済(残金支払い)および所有権移転登記は、農地法第5条の許可指令書が交付された後、〇日以内に行う」という条項を明確に盛り込みます。
添付図面による計画の具体化
4条許可と同様に、転用計画の具体的な図面が必須です。
特に、転用部分と残存農地部分を明確に分け、転用部分の面積が事業に必要最小限であることを、土地利用計画図と施設配置図で示します。
3. 申請後の知事審査フローと「安全な所有権移転」までの最終手続き
農地法第5条許可は、申請書を農業委員会に提出した後、都道府県知事(または権限を有する市町村長)による二段階の厳格な審査を経ます。
許可指令書が交付された後も、所有権の移転登記、工事着手届、そして地目変更登記まで、複雑な手続きが続きます。
ここでは、許可後のリスク管理と最終的なゴールまでの流れを解説します。
農業委員会経由の都道府県知事審査の厳格性
5条許可は、知事許可が必要なため、審査期間が長く、求められる資料も多岐にわたります。
- 農業委員会の現地調査と意見書添付
- 申請書が提出されると、農業委員会は書類審査と現地調査を実施します。
この調査では、売主・買主双方へのヒアリングが行われ、両者が転用と権利移動を明確に認識しているか、また事業計画に虚偽がないかを確認されます。
農業委員会は、その結果を「意見書」として添付し、知事へ進達します。
- 申請書が提出されると、農業委員会は書類審査と現地調査を実施します。
- 都道府県庁での詳細審査
- 都道府県の農政担当部署において、立地基準、一般基準、事業計画の確実性などが最終的に精査されます。
審査期間は、自治体や農振除外の有無によって大きく変動しますが、通常、申請から許可指令書の交付まで最短でも6週間~8週間を要します。
- 都道府県の農政担当部署において、立地基準、一般基準、事業計画の確実性などが最終的に精査されます。
許可後の手続き:所有権移転登記と代行のメリット
審査を経て許可指令書が交付されても、手続きは半分しか終わっていません。
- 所有権移転登記の義務
- 許可指令書は、あくまで「契約の効力が発生した」という証明であり、土地の所有権が買主に移ったわけではありません。
買主は、この許可指令書を添付し、速やかに法務局へ「所有権移転登記」を申請しなければなりません。
この登記を経て、初めて買主は法的な所有者となります。
- 許可指令書は、あくまで「契約の効力が発生した」という証明であり、土地の所有権が買主に移ったわけではありません。
- 専門家によるサポート
- この所有権移転登記は、行政書士ではなく司法書士の独占業務ですので注意が必要です。
最終ステップ:工事着手・完了報告と地目変更登記
登記が完了し、名実ともに所有者となっても、まだ行政手続きは続きます。
- 工事着手届・完了報告書
- 転用工事に着手する際、そして工事が完了した際に、その都度、農業委員会へ工事着手届および工事完了報告書を提出します。
これは、許可された計画通りに転用が行われたことを行政に報告するための手続きです。
- 転用工事に着手する際、そして工事が完了した際に、その都度、農業委員会へ工事着手届および工事完了報告書を提出します。
- 地目変更登記
- 工事完了報告が受理され、土地の現況が宅地などになった後、土地家屋調査士を通じて法務局へ地目変更登記を申請し、「田・畑」から最終的な目的の地目に変更を完了させます。
代行依頼のおすすめ
農地転用5条許可は、「契約が有効になるか否か」という取引の根幹に関わる重大な手続きです。売主・買主双方の権利を守り、複雑な複合審査と二段階の登記手続きを安全に完了させるためには、専門家の関与が不可欠です。
当事務所は、農地法手続きを専門とし、お客様の事業計画を法的リスクから守り、確実な所有権移転までサポートいたします。
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