建設業許可の取得を検討し始めると、「経営業務の管理責任者」「営業所技術者(旧:専任技術者)」といった人の要件と並んで、必ず出てくるのが「500万円」というお金の要件です。「うちは自己資本がそんなにない」「残高証明書って何をどう用意すればいいのかわからない」――こうした不安から相談を止めてしまう方は少なくありません。
しかし、この財産的基礎要件は、自己資本が500万円に満たなくても、預金残高証明書を用意すれば満たせる制度になっています。本記事では、岡山県の「建設業許可の手引」「審査要領」(岡山県土木部監理課)の内容に基づき、一般建設業の財産的基礎要件について、判定方法・残高証明書の取り方・新設法人の場合の扱いまで整理します。
なお、建設業許可には財産的基礎要件のほかに、経営業務の管理責任者・営業所技術者・欠格要件など複数の要件があります。全体像は建設業許可の6つの要件(岡山)で確認してください。
財産的基礎要件とは―一般建設業に必要な3つの選択肢
建設業許可(一般建設業)を受けるには、「請負契約を履行するに足る財産的基礎又は金銭的信用を有すること」が必要とされています。これは、倒産することが明白な場合を除き、次の①〜③のいずれか1つを満たせばよいという選択的な要件です。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| ① 資金調達能力 | 500万円以上の資金調達能力があると認められること(取引金融機関の残高証明書等で証明) |
| ② 自己資本 | 自己資本の額が500万円以上あること |
| ③ 継続営業実績 | 許可申請直前の過去5年間、許可を受けて継続して営業した実績を有すること |
つまり、「自己資本が500万円ない」というだけで諦める必要はありません。それぞれの内容を順に見ていきます。
自己資本500万円の計算方法―法人と個人事業主の違い
②の「自己資本の額」は、法人か個人事業主かで計算方法が異なります。
法人の場合
法人の自己資本は、貸借対照表における純資産合計の額で判定します。直近の決算書(事業年度終了報告で提出したもの)の純資産合計が500万円以上あれば、それだけで要件を満たします。
個人事業主の場合
個人事業主の場合は、貸借対照表がそのまま使えるとは限らないため、次の計算式で自己資本を算出します。
期首資本金+事業主借勘定+事業主利益-事業主貸勘定+利益留保性の引当金・準備金
日々の帳簿から機械的に算出できる項目ですが、判断に迷う場合は税理士や行政書士に確認しながら進めることをおすすめします。一人親方が建設業許可を取るには(岡山)でも、個人事業主特有の注意点にふれています。
なお、要件を満たすかどうかの確認は、原則として既存の企業は直近の事業年度終了報告の財務諸表、新規設立の企業は創業時の財務諸表によって行われます(新設法人の扱いは後述します)。
残高証明書の取り方―発行時期・有効期限・複数口座の合算
自己資本が500万円に届かない場合は、①の「資金調達能力」で要件を満たすことができます。証明方法は、取引金融機関が発行する預金残高証明書です。ここが実務上いちばん間違えやすいポイントなので、順を追って説明します。
有効期限は「発行日」ではなく「証明日」基準
残高証明書の有効期限について、岡山県の審査要領は次のように明記しています。
新規許可申請書等に添付する金融機関の残高証明書については、申請時点から1か月以内の時点における残高が許可要件を満たしているかどうかで判断することとする(証明書の発行日が1か月以内という意味ではないので注意すること。)。
つまり基準になるのは「発行日」ではなく「残高を証明している時点(証明日)」です。証明書自体の発行から多少日数が経っていても、証明日(基準日)が申請の受付日から1か月以内の500万円以上の残高であれば有効、という考え方です。この違いを取り違えて古い証明書を出してしまうケースがあるため、金融機関に証明書を依頼する際は「証明日(基準日)」を必ず確認しましょう。
複数金融機関の残高を合算する場合の注意点
1つの金融機関だけで500万円に届かない場合、複数の金融機関の残高証明書を合算して500万円以上とすることも可能です。ただしその場合、すべての証明書の証明日を同日付に揃えることが条件になります。
審査要領には次のように定められています。
2以上の金融機関の残高証明書の合計が500万円以上となる場合は、証明日が同日付である場合のみ確認資料として認める。別の日付であれば再度証明書を取り直し、提出すること。なお、証明日は発行日とは異なるので注意すること。
証明日が1日でもずれていると、合算資料として認められず再取得が必要になります。複数の金融機関から残高証明書を取得する場合は、同じ日を基準日に指定して依頼するようにしてください。
補正が長引いた場合の救済規定
申請書を持参した時点では証明日から1か月以内だったものの、その後の補正対応に時間がかかり1か月を経過してしまうケースもあります。この場合、審査要領では申請時から2か月以内のものであれば認める、という実務上の救済的な取り扱いが定められています。とはいえ、これはあくまで例外的な運用であり、原則は「1か月以内」である点に変わりはありません。証明書は申請直前のタイミングで取得するのが安全です。
残高証明書が不要になるケース
次のいずれかに該当する場合、残高証明書の添付は不要です。
- 直近の財務諸表で、自己資本(純資産)が500万円以上あることが確認できる場合
- 更新・業種追加・般特新規申請で、許可申請直前の過去5年間、許可を受けて継続して営業した実績がある場合
裏を返すと、業種追加の申請では「過去5年間の継続営業実績がなく、かつ直前決算の自己資本が500万円未満」の場合は、残高証明書の添付が必要になるということです。すでに他業種で許可を持っている事業者であっても、決算内容によっては残高証明書の準備が必要になる場合があるので注意してください。
なお、許可の有効期限が切れた直後(満了日から1か月以内)に新規申請が受理された場合は「継続して営業した実績を有する者」とみなされ、残高証明書等が不要になる特例もあります。更新のタイミングを逃してしまった場合は、早めに事務所へご相談ください。
新設法人・開業直後の場合はどう判断される?
「設立したばかりでまだ決算を迎えていない」「開業直後で実績がない」という場合、財産的基礎要件はどう判定されるのでしょうか。
岡山県の手引・審査要領では、この場合創業時(設立時)の財務諸表によって自己資本を確認する、と一貫して定められています。
新規設立法人が1度目の決算を迎えないままに追加申請(般特新規申請)をする場合、自己資本の額は設立時の財務諸表により確認する。
決算を迎えていない新設法人であっても、財務諸表の添付自体は省略できません。この場合の財務諸表は「通常は資本金に関する記載のみ」となる簡易なもので構わないとされています。つまり、設立時の資本金を500万円以上に設定しておけば、決算前でも自己資本要件を満たすことができ、資本金が500万円に届かない場合は、代わりに残高証明書(①資金調達能力)で要件を満たす、という選択になります。
これから法人を設立して建設業許可を取得する場合、資本金の額をいくらに設定するかは許可取得のスケジュールに直結します。個人事業から法人化するタイミングで許可の承継を検討している方は、法人成りと建設業許可の承継(岡山)もあわせてご確認ください。
費用と標準処理期間
財産的基礎要件そのものに追加費用はかかりませんが(残高証明書の発行手数料は金融機関ごとに数百円程度かかります)、建設業許可全体の法定手数料と標準処理期間は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 新規許可の法定手数料 | 90,000円 |
| 業種追加の法定手数料 | 50,000円 |
| 残高証明書の発行手数料 | 金融機関ごとに数百円程度 |
| 標準処理期間 | おおむね2ヶ月程度(書類の状況により変動) |
※上記の金額・期間は目安です。最新の金額・要件は岡山県の手数料条例および最新版の手引でご確認ください。
なお、1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事の場合は1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事)の軽微な工事のみを行う場合は、建設業許可そのものが不要です。財産的基礎要件を含めた許可取得の必要書類全体については、建設業許可の必要書類一覧(岡山)で確認できます。
その先へ―財産的要件をクリアした後の展開
財産的基礎要件は、許可を取得して終わりではなく、その後の事業展開にも関わってきます。
- 公共工事の入札に参加したい場合は、経営事項審査(経審)の受審が必要です。経審では財務状況も評点化の対象になります。詳しくは経審サービス(岡山)をご覧ください。
- 経審を受けた後、実際に入札に参加するには入札参加資格の申請が必要です。入札参加資格サービス(岡山)で流れを確認できます。
- 許可取得後は、毎年の決算変更届(事業年度終了報告)や5年ごとの更新など、継続的な手続きが発生します。これらをまとめて任せたい方向けに、月5,500円〜の3プラン(ライト5,500円/スタンダード11,000円/フル15,000円、税込)による顧問契約サービスも用意しています。
営業所技術者要件の詳細は営業所技術者の実務経験10年証明(岡山)、経営業務の管理責任者要件の詳細は経営業務の管理責任者の要件・証明(岡山)でそれぞれ解説していますので、財産的基礎要件とあわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
まとめ
一般建設業の財産的基礎要件は、①500万円以上の資金調達能力(残高証明書)、②自己資本500万円以上、③過去5年間の継続営業実績、のいずれか1つを満たせばよい選択的な要件です。自己資本が500万円に届かなくても、残高証明書を正しいタイミング・条件で取得すれば要件はクリアできますし、新設法人であっても創業時の財務諸表による判定という道が用意されています。一方で、残高証明書の有効期限は「発行日」ではなく「証明日」基準である点、複数金融機関を合算する場合は証明日を同日付に揃える必要がある点など、実務上つまずきやすい細部も少なくありません。ご自身のケースがどの選択肢に該当するか、また残高証明書が必要かどうかの判断は、決算内容や許可歴によって個別に異なりますので、最終的には行政書士など有資格者による確認をおすすめします。
