

「建設業許可は法人でないと取れないのでは」と考えている個人事業主の方は少なくありません。しかし結論から言うと、個人事業主のままでも建設業許可は取得できます。
一方で、事業を広げていく過程で法人化(法人成り)を検討する場面も出てきます。その際に「今の許可はどうなるのか」「法人としてもう一度取り直すのか」で迷う方も多いところです。
この記事では、岡山県「建設業許可の手引」の記載に基づき、個人事業主が建設業許可を取得する際の要件の満たし方と、法人化のタイミングを迎えたときの選択肢(新規取得か、事業承継の認可か)を整理します。
1. 結論:個人事業主でも建設業許可は取得できる
建設業許可の制度は、そもそも「法人」と「個人」の両方が許可を受けられる前提でつくられています。手引の要件条文でも、常に「法人の場合」と「個人の場合」が並記されています。
- 経営業務の管理責任者(常勤役員等)について:「法人の場合は常勤の役員、個人の場合はその者又は支配人をいう」
- 誠実性の要件について:「法人にあっては法人・役員等が、個人にあっては事業主及び支配人が」不正・不誠実な行為をするおそれが明らかでないこと
- 財産的基礎(500万円以上の資金調達能力等)の要件も、法人・個人で共通の扱い
様式面でも、個人事業主向けの取扱いが用意されています。許可申請書に添付する別紙1「役員等の一覧表」は、個人事業主の場合は添付不要とされています。また財務諸表についても、法人用(様式第15号〜17号)とは別に、個人用の様式(貸借対照表=様式第18号、損益計算書=様式第19号)が用意されています。
さらに、廃業届の提出事由の一つに「個人で許可を受けていた場合で、当該事業主が死亡したとき」という項目が独立して存在していることも、個人が許可の主体になり得ることの裏付けです。
つまり、法人化していないことを理由に建設業許可の取得をあきらめる必要はありません。ポイントは、次章以降で説明する「経営業務の管理責任者」と「営業所技術者(旧:専任技術者)」という2つの人的要件を、事業主本人がどう満たすかです。要件の全体像は建設業許可の6つの要件でも整理していますので、あわせてご確認ください。
2. 個人事業主が「経営業務の管理責任者(常勤役員等)」を満たすには
要件の考え方
建設業許可を受けるには、建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有する者など、一定の経験・体制要件を満たす常勤役員等を置く必要があります。手引では「常勤役員等とは、法人の場合は常勤の役員、個人の場合はその者又は支配人をいう」とされており、個人事業主本人がそのまま経営業務の管理を行う者になることができます。
具体的には、建設業を営業していた法人の常勤の役員、個人事業主、令3条の使用人などとしての経験が必要とされ、営業所調査ではこの経験を契約書原本や注文書原本・請書の写し、建設業の許可通知書等で立証することが求められます。より詳しい要件・証明パターンは経営業務の管理責任者の要件・証明で解説しています。
証明方法と、見落としやすい注意点
個人事業主本人が5年以上経営してきた実績は、次のような書類で確認されます。
- 確定申告書の控え(税務署収受印のあるもの、または申告書等情報取得サービスで取得した税務署提出日が分かる申告書控え)や所得証明等で、経営を管理した期間を確認
- 工事請負契約書(原本)または注文書(原本)+請書(写し)、建設業の許可通知書等で、実際に建設業を営んでいたことを確認
なお、個人事業主本人が経営業務の管理責任者等(あるいは次章の営業所技術者等)となる場合は、雇用保険・社会保険関係の書類による常勤性確認は不要とされています。
ここで実務上つまずきやすいのが、証明書(様式第7号)の作成ルールです。手引には次のように明記されています。
「証明は経営業務の管理経験等を積んでいた時期の使用者(法人の代表者又は個人事業主)が行ってください。…また、個人事業主は経営を補佐していた者に対してしか証明することができず、自分自身を証明することはできませんので、自営していた経験は同業他者による証明が必要です。なお、この場合においても契約書等の書類確認ができなければ許可を取得することはできません。」
つまり「自分が個人事業主として5年以上経営してきた」という経験そのものは、自分で自分を証明することができません。同業の第三者による証明と、それを裏付ける契約書等の書類が両方そろって初めて認められます。過去の取引先や同業者との関係が薄い場合、この証明者探しが想定より時間のかかる作業になることがあります。早めに着手することをおすすめします。
また、後述するように法人化した後に生じる注意点として、「個人事業主時代の経験期間について、法人成後の当該法人が個人事業主時代の経験を証明することはできません」という点もあわせて押さえておく必要があります。
3. 個人事業主が「営業所技術者」を満たすには
要件の考え方
営業所ごとに、次のいずれかに該当する常勤の技術者を配置する必要があります。要件自体は法人・個人で差はありません。
- 国家資格保有
- 高校・専修学校卒業+一定年数の実務経験(学歴に応じた実務経験年数)
- 1級検定合格後3年の実務経験
- 2級検定合格後5年の実務経験
- 当該業種について10年以上の実務経験
個人事業主本人がこれらのいずれかに該当していれば、自ら営業所技術者になることができます。
証明方法
資格による場合は、免状や合格証明書等の原本の写しを様式第8号(営業所技術者等証明書)に添付するだけで足ります。
一方、10年の実務経験による場合は、様式第9号「実務経験証明書」の添付が必要です。ここでも経営業務の管理責任者と同様の制約があります。
「証明は実務経験を積んでいた時期の使用者(法人又は個人事業主)が行ってください。…個人事業主は自分自身を証明することはできず、法人成の場合も法人設立以前のことについては証明能力がないため、同業他者の2者による証明が必要です。」
実務経験年数は原則として社会保険加入期間で確認され、未加入期間については出勤簿・賃金台帳・源泉徴収票・所得証明書等で補完します。なお、個人事業主本人が営業所技術者等となる場合は、社会保険証等による常勤性確認は不要です。
10年の実務経験による証明を検討している方は、営業所技術者の実務経験10年証明で必要書類をより詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。なお、業種によって実務経験の考え方や求められる書類が異なる場合があります(解体工事業、とび・土工工事業など)。
4. 一人親方として活動している場合との違い
現場作業を自ら行いながら個人事業主として活動している、いわゆる一人親方の立場から建設業許可を検討する場合、上記の経営業務の管理責任者・営業所技術者の要件に加えて、労災保険の特別加入や、請負・雇用の区分といった実務上の論点が絡んできます。この点は個人事業主全般の解説とは切り口が異なるため、一人親方が建設業許可を取るにはで個別に整理しています。現場に立ちながら許可取得を目指す方は、こちらもあわせてご覧ください。
5. 法人化のタイミングをどう考えるか
個人事業主のまま許可を取得した後、いつ法人化するかは経営判断の分かれるところです。判断材料としてよく挙がるのは次のような点です。
- 1件あたり500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満等)の工事のみで完結しているか、それとも許可が必要な規模の工事が増えているか
- 元請や発注者から法人としての取引を求められる場面が増えているか
- 将来的に経営事項審査(経審)を受けて公共工事の入札参加を目指す予定があるか
- 事業規模の拡大に伴い、責任の範囲や税務上の扱いを法人形態に切り替えるメリットがあるか
※軽微な建設工事の基準(500万円未満、建築一式工事は1,500万円未満等)は、岡山県「建設業許可の手引」P.51・P.207に基づきます。
法人化のメリット・デメリットや具体的なタイミングの見極め方は、法人成りと建設業許可の承継で詳しく解説しています。この記事では、法人化を決めた後に「許可をどう引き継ぐか」という手続き面に絞って次章で説明します。
6. 法人化するとき、許可は「新規取得」か「事業承継の認可」か
法人化を決めても、個人時代の許可が自動的に法人へ引き継がれるわけではありません。手引には次のように明記されています。
「個人で許可取得後に組織変更し、法人として営業する(法人成)の場合 法人として改めて新規申請を行う(法人の新規申請と同時に個人許可の廃業届を提出する)か、個人から法人への事業譲渡に係る認可申請を行う必要があります。法人の許可申請と個人の廃業届を同時提出する場合には、法人としての建設業許可を受けるまでの間は無許可となりますので注意してください。」
つまり選択肢は次の2つです。
選択肢1:法人として新規申請+個人事業の廃業届
法人として改めて許可申請を行い、同時に個人事業の廃業届を提出する方法です。手続きとしては分かりやすい一方、法人としての許可が下りるまでの間は無許可の状態になる点に注意が必要です。無許可の期間は500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上等)の工事を新たに請け負うことができないため、案件の受注状況によっては事業への影響が生じ得ます。
選択肢2:事業承継の認可(建設業法第17条の2・第17条の3)
事前に認可を受けることで、許可を空白期間なく承継できる制度です。手引では次のように案内されています。
「許可を受けている建設業の事業承継や相続を行う場合は、事前の認可を受けることで、建設業の許可を承継することができます。」
この認可制度は次の4類型に対応しています。
- 建設業法第17条の2:譲渡及び譲受け(事業譲渡)、合併、分割
- 建設業法第17条の3:相続
個人事業主から法人への組織変更は、このうち「個人から法人への事業譲渡」として第17条の2の認可対象になり得ます。
なお、この事業承継の認可申請は電子申請では扱えず、書面での申請が必要です。また、対象要件や提出書類、審査基準といった制度の詳細は本編の「建設業許可の手引」には収録されておらず、別冊「建設業認可申請の手引」(岡山県ホームページでご確認ください)の案内に従うこととされています。個別の状況によって必要書類や進め方が変わるため、実際に検討する際は行政書士に確認しながら進めることをおすすめします。
法人化後も残る注意点:個人時代の経験は法人が証明できない
新規申請・認可のどちらのルートを選んだ場合でも、共通して押さえておきたいのが経験証明の扱いです。手引には次の記載があります。
- 経営業務の管理責任者について:「個人事業主時代の経験期間について、法人成後の当該法人が個人事業主時代の経験を証明することはできません」
- 営業所技術者(実務経験10年等)について:「法人成の場合も法人設立以前のことについては証明能力がないため、同業他者の2者による証明が必要です」
つまり法人化した後、更新や業種追加の際に個人事業主時代の経験を使う場合は、法人自身ではなく同業の第三者による証明が必要になります。将来使う可能性がある経験については、個人事業主時代のうちに契約書等の裏付け書類を整理しておくと、法人化後の手続きがスムーズになります。
法人化と許可承継の具体的な流れ・必要書類の考え方は、法人成りと建設業許可の承継でさらに詳しく解説しています。
7. 費用と期間の目安
個人事業主・法人のいずれで申請する場合も、法定手数料と標準処理期間は共通です。なお、1件あたり500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事)のみを請け負う場合は、許可自体が不要です。
| 区分 | 手数料 | 標準処理期間 |
|---|---|---|
| 新規許可 | 90,000円 | おおむね2ヶ月程度 |
| 業種追加 | 50,000円 | おおむね2ヶ月程度 |
※上記の法定手数料・標準処理期間は岡山県「建設業許可の手引」P.14・P.16に基づきます。軽微な建設工事の基準(500万円未満等)はP.51・P.207を参照しています。
事業承継の認可(第17条の2・第17条の3)にかかる手数料や処理期間は、本編の手引には記載がなく、別冊の「建設業認可申請の手引」で個別に確認する必要があります。新規申請と事業承継の認可のどちらが自社の状況に適しているかは、必要な書類の準備状況や案件のスケジュールによっても変わるため、判断に迷う場合は早めに相談することをおすすめします。
8. その先を見据えるなら:経審・入札参加・顧問契約
法人化して事業規模が拡大していく過程では、公共工事の入札参加を見据えて経営事項審査(経審)を受けることを検討する事業者もあります。経審や入札参加資格の要件は経審サービス・入札参加資格のページで解説しています。
また、許可取得後は決算変更届や更新申請など、毎年・数年おきに発生する届出の管理が必要になります。継続的なサポートが必要な場合は、月5,500円〜の3プラン(ライト5,500円/スタンダード11,000円/フル15,000円、税込)で対応する顧問契約もご検討ください。
まとめ
建設業許可は、個人事業主のままでも取得できる制度です。経営業務の管理責任者(常勤役員等)・営業所技術者のいずれも、個人事業主本人がその要件を満たせば自らその立場になれますが、特に経営業務の管理責任者としての経験や実務経験を証明する際には「自分で自分を証明できない」という制約があり、同業他者による証明と契約書等の裏付け資料をそろえる必要がある点に注意が必要です。将来法人化する際も、個人の許可は自動的には引き継がれず、法人としての新規取得か、事前の認可を受ける事業承継のいずれかを選ぶことになります。無許可期間の発生リスクや経験証明の扱いなど判断が分かれる論点が多いため、個別の状況については行政書士への確認をおすすめします。
よくある質問
個人事業主の建設業許可、法人化のタイミングもあわせてご相談ください
お電話(070-8567-3197/平日9〜18時)・メール・LINE からお気軽にご相談ください。岡山県全域に対応しています。
