
建設業許可の申請書にも、許可を取ったあと毎年出す事業年度終了報告(いわゆる決算変更届)にも、財務諸表が付いてきます。そして岡山県の手引は、この財務諸表について「税務署に申告した直近の決算書を基に、個人/法人の別に指定された様式を用いて作成してください。内容が一緒でも独自様式では認められません」という前提を置いています(手引 PDF p.130)。
問題は、その先です。「では、具体的に何がどう変わるのか」——ここが実際の作業の中身です。結論を先に言うと、変わるのは主に次の4点です。
- 様式の構成が変わる。法人は貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書・株主資本等変動計算書・注記表、個人は貸借対照表と損益計算書。しかも様式番号の数と紙の枚数は一致しません(§1-1)。
- 勘定科目が建設業法固有のものに載せ替わる。売掛金は完成工事未収入金、仕掛品にあたるものは未成工事支出金、買掛金は工事未払金、前受金は未成工事受入金——名前が変わるだけでなく、定義(摘要)そのものが決まっています(§2)。
- 消費税の扱いが科目ごとに逆を向く。税抜方式で作っていても、完成工事未収入金と工事未払金は消費税額を「含む」と定められています(§3)。
- 原価の中身の割り方が決まっている。完成工事原価報告書は材料費・労務費・外注費・経費の4区分で、労務費に係る法定福利費は労務費ではなく「経費」です。岡山県はここを「税務申告では合算してしまう例が多い」と名指しで指摘しています(§4)。
本記事は、岡山県で建設業に特化する行政書士が、岡山県の手引・審査要領に実際に書かれていることだけを使って、この4点と作成ルール(千円単位・注記表・突合)を整理したものです。
※ 財務諸表の作成は、会社ごとの決算の中身・兼業の有無・会計処理の方式という個別の実態によって、どの欄にどう載せるかの判断が分かれます。本記事は岡山県知事許可を前提とした一般的な整理であり、特定の会社の決算について結論を保証するものではありません。また、仕訳・会計処理・税務申告そのものは行政書士の業務範囲ではありませんので、税務・会計の処理は顧問税理士に、様式への記載は有資格者(行政書士)または岡山県の担当窓口にご確認ください。
1. 財務諸表は「様式」で決まっている——様式番号の一覧だけでは見えない3つのこと
まず、財務諸表がどの書類の中に入っているのかを押さえます。財務諸表は、許可申請書の添付書類であり、かつ毎年の事業年度終了報告(決算日から4か月以内)の添付書類でもあります(手引 PDF p.22)。毎年の届出の全体像・提出書類の一式・提出期限は決算変更届(事業年度終了報告)とは|毎年の提出義務と流れに、取得後に動き出す期限の全体像は建設業許可を取った後の手続き全体像(更新・決算変更届・変更届カレンダー)にまとめていますので、本記事では財務諸表そのものだけを縦に掘ります。
法人と個人で様式番号が分かれること自体は上記の記事が対比表を持っていますので、ここでは繰り返しません。本記事が扱うのは、その一覧表からは読み取れない3つの層です。
1-1. 様式第16号は「損益計算書」と「完成工事原価報告書」の2枚を含む1つの様式番号
法人用の財務諸表の表紙には、綴じる様式が次のように列挙されています(手引 PDF p.94)。
様式第十五号 貸借対照表/様式第十六号 損益計算書 完成工事原価報告書/様式第十七号 株主資本等変動計算書/様式第十七号の二 注記表
注目していただきたいのは様式第十六号の行です。1つの様式番号の下に、損益計算書と完成工事原価報告書という2枚の帳票がぶら下がっています。手引 PDF p.169 の書類一覧表でも「第16号/法人用の損益計算書、完成工事原価報告書」と1行で書かれています。
つまり、「法人の財務諸表は4様式だから4枚」ではありません。 実際に作る帳票は、貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書・株主資本等変動計算書・注記表の5枚(附属明細表が必要な会社はさらに1枚)です。様式番号の数を枚数だと思って作業量を見積もると、必ず1枚分足りなくなります。
なお、財務諸表の表紙には「※ 財務諸表は両面印刷としてください。」という指示が入っています(手引 PDF p.94・p.123)。法人用・個人用の両方に同じ指示があります。片面で印刷して綴じると、それだけで作り直しになります。
1-2. 個人には「完成工事原価報告書」という独立した様式が存在しない
ここは、他県向けの解説をそのまま当てはめると高い確率で間違うところです。
個人事業主の財務諸表は、様式第十八号(貸借対照表)と様式第十九号(損益計算書)の2点だけです(手引 PDF p.123)。完成工事原価報告書という独立した様式はありません。
では原価の内訳はどこへ行くのかというと、様式第19号の「Ⅱ 売上原価」欄の中に、材料費/労務費(うち労務外注費)/外注費/経費という区分が組み込まれています(手引 PDF p.127)。法人が別紙で作るものを、個人は損益計算書の中で完結させる、という構造です。
「個人だから完成工事原価報告書も作らなければ」と探しても様式は見つかりませんし、逆に「個人は原価の内訳を書かなくてよい」というのも誤りです。様式が無いのであって、内訳の記載が免除されているわけではありません。
1-3. 合同会社などの持分会社は、法人用の様式を「読み替えて」書く
もう1つ、一覧表からは読めない層があります。合同会社・合資会社・合名会社といった持分会社の扱いです。
持分会社も法人ですから、使う様式は法人用(第15号〜第17号の2)です。ただし、記載要領に読み替えの指示が置かれています。
持分会社である場合においては、「株主資本」とあるのは「社員資本」と、「新株式申込証拠金」とあるのは「出資金申込証拠金」として記載することとし、資本剰余金及び利益剰余金については、「準備金」と「その他」に区分しての記載を要しない。
(手引 PDF p.99・貸借対照表の記載要領)
株主資本等変動計算書の側にも同じ趣旨の記載要領があり、「株主資本等変動計算書」とあるのは「社員資本等変動計算書」と、「株主資本」とあるのは「社員資本」として記載するとされています(手引 PDF p.106・記載要領18)。
合同会社なのに「株主資本」のまま提出している財務諸表は、実務でしばしば見かける形です。様式のひな型が株式会社を前提に作られているため、そのまま埋めると自動的にそうなります。
1-4. 事業報告書は「様式番号を持たない」うえに、許可申請では出さない
財務諸表とセットで語られがちなのが事業報告書ですが、これは位置づけが二重に違います。
- 対象は株式会社だけです。合同会社等の持分会社は対象外です(手引 PDF p.32 の中表紙も「事業報告書(株式会社の場合)」と書いています)。
- そして事業報告書は、許可申請の提出書類ではありません。 手引 PDF p.169 の「建設業の許可申請(新規・更新・追加等)に必要な書類一覧表」に、事業報告書の行は存在しません。手引が事業報告書のひな型を示している箇所は、株式会社が毎年提出する事業年度終了報告書に事業報告書を添付することとされている、という説明から始まっています(手引 PDF p.122)。
つまり、事業報告書は毎年の届出のときに付ける書類であって、新規許可を取るときの申請書に入れる必要はありません。一方、審査要領は財務諸表のチェック箇所の中で「株式会社の場合は、当該決算期の事業報告書を添付すること」と明記しています(審査要領 PDF p.27)ので、毎年の事業年度終了報告では株式会社は必ず付けるという関係になります。
事業報告書そのものの中身と、株主の状況欄については §8-4 で扱います。
2. 建設業法固有の勘定科目——売掛金・仕掛品・買掛金・前受金はどこへ移るのか
ここからが、本記事の中心です。
財務諸表の記載要領には、「勘定科目の分類は、国土交通大臣が定めるところによること。」という一文が置かれています(手引 PDF p.99・p.102)。審査要領は、その「国土交通大臣が定めるところ」の正体を明示しています。
勘定科目については、「建設業法施行規則別記様式第 15 号及び第 16 号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件(昭和 57 年 10 月 12 日建設省告示第 1660 号)」を参照すること。
(審査要領 PDF p.27)
そして岡山県の手引は、この告示の中身を「9 財務諸表の勘定科目の分類」として PDF p.171〜p.179 に全文掲載しています。 科目名と「摘要」(=定義)が対になった一覧です。財務諸表を作るということは、この一覧に載っている科目名で決算の数字を並べ直すことにほかなりません。
2-1. 営業循環の4科目——完成工事未収入金・未成工事支出金・工事未払金・未成工事受入金
税務申告用の決算書で「売掛金・仕掛品・買掛金・前受金」として並んでいた金額は、建設業法の分類では別の科目名になります。それぞれの摘要は次のとおりです。
完成工事未収入金(流動資産)
完成工事未収入金/完成工事高に計上した工事に係る請負代金(税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む。以下同じ。)の未収額
(手引 PDF p.171)
未成工事支出金(流動資産)
未成工事支出金/完成工事原価に計上していない工事費並びに材料の購入及び外注のための前渡金及び手付け等
(手引 PDF p.171)
工事未払金(流動負債)
工事未払金/工事費の未払額(工事原価に算入されるべき材料貯蔵品購入代金等を含む。)ただし、税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む。
(手引 PDF p.174)
未成工事受入金(流動負債)
未成工事受入金/請負代金の受入高のうち完成工事高に計上していないもの
(手引 PDF p.174)
この4つを並べると、建設業の財務諸表が「完成したか/していないか」で資産と負債を割っていることが見えてきます。
| 建設業法の科目 | どこに載るか | 分かれ目 |
|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 流動資産 | 完成工事高に計上した工事の請負代金のうち未収の分 |
| 未成工事支出金 | 流動資産 | 完成工事原価に計上していない工事費・前渡金・手付け等 |
| 工事未払金 | 流動負債 | 工事費の未払額(工事原価に算入されるべき材料貯蔵品購入代金等を含む) |
| 未成工事受入金 | 流動負債 | 請負代金の受入高のうち完成工事高に計上していないもの |
「完成工事高に計上したかどうか」がすべての起点です。工事の完成をどの時点で計上するかがずれると、この4科目が連動してずれます。
なお、完成工事未収入金・受取手形については、破産債権・再生債権・更生債権その他これらに準ずる債権で決算期後1年以内に弁済を受けられないことが明らかなものは、投資その他の資産に記載する、という但書も付いています(手引 PDF p.171)。
2-2. 売上と原価は「完成工事」と「兼業事業」に割る
損益計算書の側も、科目が分かれます。
完成工事高/工事進行基準により収益に計上する場合における期中出来高相当額及び工事完成基準により収益に計上する場合における最終総請負高(請負高の全部又は一部が確定しないものについては、見積計上による請負高。)…なお、共同企業体により施工した工事については、共同企業体全体の完成工事高に出資の割合を乗じた額又は分担した工事額を計上する。
(手引 PDF p.176)
同じページで、兼業事業売上高は「建設業以外の事業(以下 「兼業事業」という。)を併せて営む場合における当該事業の売上高」、完成工事原価は「完成工事高として計上したものに対応する工事原価」、兼業事業売上原価は「兼業事業売上高として計上したものに対応する兼業事業の売上原価」と定義されています。
損益計算書の記入例にも、「建設工事と兼業事業を区別して計上します。」「草刈、調査、委託業務等の建設工事でないものは、兼業事業として計上します。」という注記が入っています(手引 PDF p.100)。
どの業務が「兼業事業」に当たるのかについては、岡山県が具体的な例示を置いており、これは異業種から建設業に参入して許可を取るにはが本家として扱っています。本記事では、財務諸表の側で売上と原価をこの2本に割る必要があるという構造だけを押さえてください。
なお、共同企業体(JV)の完成工事高について「出資の割合を乗じた額又は分担した工事額」と書かれている点は、JVで施工している会社では実額と一致しないことになります。決算書の売上高をそのまま完成工事高に写せない典型例です。
2-3. 「その他」に入れっぱなしにしない——科目を起こすときの作法
決算書では「その他」「雑収入」でまとめていた項目が、建設業法の分類では収まりきらないことがあります。手引はその処理を具体的に指示しています。
・【勘定科目「その他」に計上されるもの】内容の分かる適当な科目を起こして記載しても構いません。ただし、現在の項目を訂正するのではなく、新たに空欄を作って科目を作成してください。
(手引 PDF p.130)
既存の印字された科目名を消して上書きするのではなく、空欄を作って新しい行を起こす——これが岡山県の指定です。様式のひな型に印字されている科目名を書き換えて提出すると、その時点で「指定された様式」ではなくなります。
貸借対照表の記載要領にも、金額の重要性に応じた明示ルールが置かれています(§6-4 で扱います)。
2-4. 個人事業主に固有の4科目
個人用の財務諸表には、法人には無い科目があります。
- 期首資本金
- 事業主借勘定(事業主が事業外資金から事業のために借りたもの)
- 事業主貸勘定(事業主が営業の資金から家事費等に充当したもの)
- 事業主利益(事業主損失)(損益計算書の事業主利益(事業主損失))
これ以外の勘定科目の分類は、法人の勘定科目の分類によることとされています(手引 PDF p.126・p.129)。
ここで1つ注意があります。「期首資本金」の言い回しが、資料の中で3通りに書かれています。
| 出典 | 書きぶり |
|---|---|
| 手引 PDF p.125(様式第18号そのもの) | 「期 首 資 本 金 (7)→前期末の(11) と一致」((11)=純資産合計) |
| 手引 PDF p.126(個人用貸借対照表 記載要領2) | 「期首資本金 前期末の資本合計」 |
| 手引 PDF p.179(勘定科目の分類【個人の勘定科目】) | 「期首資本金 前期末の純資産合計」 |
実務上の意味は「前期末の純資産合計」で3者とも一致しますが、資料を引用するときは、どのページの言い回しかを合わせてください。 「手引にはこう書いてある」と言うときに、別のページの文言を混ぜてしまうと、窓口で確認するときに話がかみ合わなくなります。
3. 消費税——税抜方式でも「含む」科目があり、税込・税抜を書く場所も違う
財務諸表全体を税込で作るか税抜で作るかを統一しなければならないこと自体は、工事経歴書・様式第3号との整合の論点として決算変更届(事業年度終了報告)とは|毎年の提出義務と流れが扱っています。本記事が扱うのは、その先の2つの各論です。
3-1. ★税抜方式でも消費税額を「含む」科目がある——ここだけ向きが逆
§2-1 で引いた摘要をもう一度見てください。完成工事未収入金と工事未払金は、いずれも「税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む」と書かれています(手引 PDF p.171・p.174)。
一方、完成工事高は「ただし、税抜方式を採用する場合は取引に係る消費税額及び地方消費税額を除く」です(手引 PDF p.176)。
| 科目 | 税抜方式で作る場合 | 出典 |
|---|---|---|
| 完成工事高 | 消費税額及び地方消費税額を除く | 手引 PDF p.176 |
| 完成工事未収入金 | 消費税額及び地方消費税額を含む | 手引 PDF p.171 |
| 工事未払金 | 消費税額及び地方消費税額を含む | 手引 PDF p.174 |
「税抜方式だから全部の科目から消費税を抜く」は誤りです。 損益計算書側は抜き、貸借対照表の債権・債務側は含める、という向きになります。
しかもこの但書は、完成工事未収入金の摘要の中で「以下同じ。」と宣言されています(手引 PDF p.171)。つまり、この扱いは完成工事未収入金だけの特例ではなく、それ以降の科目にも及ぶ書きぶりです。工事未払金では、負債の部に入ってから改めて同じ但書が置き直されています。
決算書の売掛金・買掛金の残高をそのまま持ってこられるかどうかは、会計ソフトで税抜経理をしているかによって変わります。ここは顧問税理士に「建設業許可の様式では、完成工事未収入金と工事未払金は税抜経理でも税込額で記載することとされている」という一点を伝えたうえで、数字を出していただくのが早道です。
3-2. 税込・税抜の別を「どこに書くか」が、法人と個人で違う
もう1つの各論です。どちらの方式で作ったのかを申告する欄が、法人と個人で別の場所にあります。
法人=注記表の「2 重要な会計方針」の(5) です。記入例には次のように印字されています。
(5) 消費税及び地方消費税に相当する額の会計処理の方法/税抜方式
(手引 PDF p.107)
注記表の記載要領も同旨で、次のように定めています。
(5) 税抜方式及び税込方式のうち貸借対照表及び損益計算書の作成に当たつて採用したものを記載する。ただし、経営状況分析申請書又は経営規模等評価申請書に添付する場合には、税抜方式を採用すること。
(手引 PDF p.112)
個人=様式第18号(貸借対照表)の末尾に置かれた「注」 です。
注/消費税及び地方消費税に相当する額の会計処理の方法/税抜き方式 (消費税非課税業者の場合は抹消して「税込み方式」と記載すること)
(手引 PDF p.125)
個人用貸借対照表の記載要領も、「注は、税抜方式及び税込方式のうち貸借対照表及び損益計算書の作成に当たって採用したものをいう。ただし、経営状況分析申請書又は経営規模等評価申請書に添付する場合には、税抜方式を採用すること。」としています(手引 PDF p.126)。
つまり、法人は注記表を作らないと「税抜で作りました」と申告する場所が無く、個人は貸借対照表の末尾の注を消し忘れると事実と違う申告になります。 個人の様式は「税抜き方式」があらかじめ印字されているため、税込みで作った個人事業主が、ここを抹消して書き換えるのを忘れるという形の食い違いが起きます。
なお、資料の中で使われている語にも差があります。個人用貸借対照表の注は「消費税非課税業者」(手引 PDF p.125)、工事経歴書の注意点は「免税業者等」(手引 PDF p.50)と書かれています。引用するときは、そのページの語をそのまま使ってください。
3-3. 税込で作るなら、各帳票の右肩に「税込」と書く(岡山県固有の運用)
これは岡山県の手引にしか書かれていない指示です。
・【税込、税抜】ほとんどの業者は税抜き方式での記載となっていますので、税込みとなる場合には区別するため各帳票の右肩に「税込」と記載しておいてください。
(手引 PDF p.130)
「各帳票の」右肩です。表紙だけではありません。貸借対照表にも損益計算書にも完成工事原価報告書にも、税込で作ったのであれば「税込」と書き入れておく、という運用です。
前段の「ほとんどの業者は税抜き方式での記載となっていますので」という一文にも意味があります。岡山県の窓口は、原則として税抜きで作られてくるものとして書類を見ているということです。税込で作った書類が何の断りもなく出てくると、その前提とずれます。
ただし、「経審を受けないなら税込でよい」と単純化しないでください。 審査要領は「経営事項審査を受審しない場合は、消費税について、税込処理でも税抜処理でも差し支えない。ただし、消費税課税業者の場合は、原則として税抜き方式で記載する。」としており(審査要領 PDF p.26)、手引より一段強い書き方をしています。課税事業者であれば税抜が原則、と理解しておくのが安全側です。
⛔ なお、本記事では消費税率の数値には触れません。 税率は改正され得るものであり、また税額計算そのものは税理士の業務範囲です。本記事が扱うのは「県の指定様式のどの欄に、どの勘定科目で、いくらで書くか」までです。
4. 完成工事原価報告書の4区分——岡山県が名指しした最頻出ミス
法人が作る完成工事原価報告書は、4つの区分でできています。個人の場合は §1-2 のとおり、様式第19号の「Ⅱ 売上原価」欄の中に同じ区分が組み込まれています。
4-1. 4区分の定義
勘定科目の分類には、次のように定義が置かれています(手引 PDF p.179)。
| 区分 | 摘要(定義) |
|---|---|
| Ⅰ 材料費 | 工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定等から振り替えられた材料費(仮設材料の損耗額等を含む。) |
| Ⅱ 労務費 (うち労務外注費) | 工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料及び手当等 (労務費のうち、工種・工程別等の工事の完成を約する契約でその大部分が労務費であるものに基づく支払額) |
| Ⅲ 外注費 | 工種・工程別等の工事について素材、半製品、製品等を作業とともに提供し、これを完成することを約する契約に基づく支払額 ただし、労務費に含めたものを除く。 |
| Ⅳ 経費 (うち人件費) | 完成工事について発生し、又は負担すべき材料費、労務費及び外注費以外の費用で、動力用水光熱費、機械等経費、設計費、労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交際費、補償費、雑費、出張所等経費配賦額等 (うち人件費=経費のうち従業員給料手当、退職金、法定福利費及び福利厚生費) |
労務費と外注費の境目は、契約の中身で決まります。工種・工程別等の工事の完成を約する契約であっても、その大部分が労務費であるものは労務費に含めて記載することができるとされ、その場合は「うち労務外注費」として再掲します(手引 PDF p.179)。人工出しに近い形の下請契約が、どちらに入るかの分かれ目です。
4-2. ★岡山県が名指しした最頻出ミス——法定福利費は労務費ではなく「経費」
ここが、本記事でもっとも実害の大きい箇所です。岡山県は手引の中で、税務申告での処理と建設業法の分類がずれる典型例を、わざわざ名指しで注意しています(手引 PDF p.130)。
要点は2つです。
- 労務費には、工事に従事した「役員である従業員」に支払った分も含めて計上する。 「Ⅱ 労務費」欄は工事に従事した直接雇用の作業員の賃金・給料・手当等を計上しますが、あわせて工事に従事した役員である従業員に支払った分も含めます。
- ★工事に従事した職員に係る法定福利費・福利厚生費は、労務費と合算しない。 岡山県は、これらを労務費と合算して税務申告してしまう例が多いようだと述べたうえで、建設業法による勘定科目分類の規定上は「Ⅳ 経費」欄に計上することとなっているとしています。完成工事原価報告書で労務費が計上される場合には、少なくとも労務費の支払対象となった作業員に係る法定福利費(社会保険等の事業主負担分等)については、経費(「うち人件費」は再掲)の欄に計上されることになる、というのが県の説明です。
つまり、同じ「人にかかったお金」でも、賃金は労務費、社会保険の事業主負担分は経費という分かれ方です。決算書の製造原価報告書で「労務費=給料+法定福利費」とまとめていた会社は、建設業許可の様式ではこれを割り直す必要があります。
4-3. 「0を記入する」欄と、「0にならない」欄
完成工事原価報告書のページには、地味ですが効き目の大きい指示が2つ置かれています(手引 PDF p.103)。1つは記載要領に。
・各欄で該当がない場合には0を記入すること。
空欄で出さない、ということです。そしてもう1つは、記入例の「(うち人件費)」欄に付いた吹き出しに。
・法人及び従業員5人以上の個人事業の場合は、少なくとも法定福利費が計上されることになるので、ここが0となることはありません。
経費の「(うち人件費)」が0の完成工事原価報告書は、法人であればまず成立しない、と県が明言しているわけです。§4-2 の割り直しをしていない書類は、この一文で見当が付いてしまいます。
4-4. 「工事に従事しない職員」は原価に入れない
損益計算書の記入例には、販売費及び一般管理費について次の注記が入っています(手引 PDF p.100)。
・「販売費及び一般管理費」は、工事に従事しない営業職や事務職等に従事する職員に係る経費となります。
・あらかじめ工事に従事する職員とは区別して決算を行う必要があります。
「あらかじめ…区別して決算を行う必要があります」——ここが実務上いちばん重い一文です。決算が終わってから財務諸表を作る段階で分けようとすると、給与台帳をさかのぼって仕分ける作業が発生します。毎年出す書類である以上、最初から区別して集計しておくほうが、結果的に安くつきます。
5. 売上原価と販売費及び一般管理費の切り分け、そして「あん分」
§4-4 の続きです。財務諸表の作り方の側から、もう少し踏み込みます。
5-1. 「Ⅲ 販売費及び一般管理費」に入るのは、原価以外に要した経費だけ
手引は、損益計算書の営業損益欄について、「Ⅲ 販売費及び一般管理費」欄には建設工事及び兼業事業に係る原価以外に要した経費のみを計上するとし、建設工事及び兼業事業に従事した者に係る経費は「Ⅱ 売上原価」のそれぞれの欄に計上するよう求めています(手引 PDF p.130)。
結果として、役員報酬・従業員給料手当・法定福利費等は、1つの科目が上下2か所に分かれて載ることになります。工事と兼業に係る分は売上原価へ、それ以外は販売費及び一般管理費へ、という割り方です。
5-2. ★同一人が両方に従事したら「適宜あん分するなどして」——率も方法も定めが無い
では、社長が現場にも出るし営業もするし経理もする、という中小建設業でよくある形はどうするのか。手引の答えは1行です。
「同一人が建設工事及び兼業事業だけではなく、販売や一般管理等にも従事した場合には、適宜あん分するなどして計上してください。」(手引 PDF p.130)
この「あん分」という語は、手引・審査要領を通じてこの1か所にしか出てきません。(「按分」「案分」という表記は両資料に1件もありません。)そして、あん分の率も方法も、両資料のどこにも定められていません。 人数割なのか、工数割なのか、売上割なのか——県は指定していません。
これは、「好きに割ってよい」という意味ではなく、「合理的な説明ができる方法で割ってください」という意味だと理解するのが自然です。逆に言えば、税理士とご相談のうえ社内で採った基準を、毎年ぶれさせずに使い続けることが、いちばん説明の付く形になります。年によって割り方が変わると、次に説明する突合や経年の推移で不自然さが出ます。
⛔ 本記事では、按分率の目安や具体的な計算方法は書きません。両資料に定めが無いためです。 一次資料に無い基準を「一般にはこうします」と書くことは、読者に県の運用と誤認させるおそれがあります。個別の割り方は、顧問税理士と当事務所を交えてご相談ください。
5-3. 兼業を「区分して書かなくてよい」ラインが、法人と個人で違う
兼業事業がある会社が、必ず売上高・売上原価を建設業と兼業に区分して書かなければならないかというと、そうではありません。しかも、免除されるラインの書き方が法人と個人で別物です。
法人(様式第16号)
なお、「兼業事業売上高」(二以上の兼業事業を営む場合においては、これらの兼業事業の売上高の総計)の「売上高」に占める割合が軽微な場合においては、「売上高」、「売上原価」及び「売上総利益(売上総損失)」を建設業と兼業事業とに区分して記載することを要しない。
(手引 PDF p.102・損益計算書の記載要領)
個人(様式第19号)
建設業以外の事業(以下「兼業事業」という。)を併せて営む場合において兼業事業における売上高が総売上高の10分の1を超えるときは、兼業事業の売上高及び売上原価を建設業と区分して表示すること。
(手引 PDF p.129・損益計算書の記載要領)
| 判定軸 | 書きぶり | |
|---|---|---|
| 法人(第16号) | 兼業事業売上高が売上高に占める割合が「軽微な場合」 | 区分して記載することを要しない(免除側から書く) |
| 個人(第19号) | 兼業事業の売上高が総売上高の10分の1を超えるとき | 区分して表示すること(義務側から書く) |
個人には10分の1という数値がありますが、法人の「軽微」には数値の定めがありません。 ここは資料の書きぶりがそもそも違うので、「法人も10分の1」と読み替えないでください。判断に迷う水準であれば、区分して書くほうが安全です(区分して書いて不利になる規定はありません)。
なお、貸借対照表の側にも兼業に関する記載要領があります。建設業以外の事業を併せて営む場合は、当該事業の営業取引に係る資産について内容を示す適当な科目をもって記載することとされ、ただしその金額が資産の総額の100分の5以下であれば同一の性格の科目に含めて記載することができます(手引 PDF p.99)。
6. 千円単位・空欄・「その他」——作成ルールの各論
ここまでが「何を、どの科目で書くか」でした。ここからは「どう書くか」です。地味ですが、作り直しの原因になりやすいのはむしろこちらです。
6-1. 千円単位(千円未満切捨て)——ただし記載要領の文言はページで違う
手引は、財務諸表全体について次のように指示しています。
・【千円単位で作成】勘定科目ごとに千円単位(千円未満切捨て)で記載してください。端数処理により各小分類の合計が大分類と一致しなくても、特に問題はありません。
(手引 PDF p.130)
各様式の記載要領にも同じ趣旨の一文が入っていますが、一字一句同じではありません。
| 様式 | 記載要領の文言 | 出典 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(法人)/損益計算書(法人)/貸借対照表(個人)/損益計算書(個人) | 「記載すべき金額は、千円単位をもって表示すること。」 | 手引 PDF p.99・p.102・p.126・p.129 |
| 株主資本等変動計算書 | 「記載すべき金額は、千円単位をもつて表示すること。」 | 手引 PDF p.105 |
| 注記表 | 「記載すべき金額は、注15を除き千円単位をもつて表示すること。」 | 手引 PDF p.111 |
注記表だけは「注15を除き」という限定が入っています。 注15は一株当たり情報の欄です。ここを千円単位に丸めてしまうと、そもそも意味を成しません。
なお、千円未満切捨ての結果として縦の合計が合わないことについては、審査要領も「千円未満を切り捨てるため、タテ計は合わなくても差し支えない」と明記しています(審査要領 PDF p.27)ので、そこは心配いりません。
6-2. 「大会社」は百万円単位で書ける——ただし法人用の様式だけ
千円単位には例外が1つあります。
ただし、会社法(平成17年法律第86号)第2条第6号に規定する大会社にあっては、百万円単位をもって表示することができる。この場合、「千円」とあるのは「百万円」として記載すること。
(手引 PDF p.99・貸借対照表の記載要領)
同じ但書は、損益計算書(p.102)・株主資本等変動計算書(p.105)・注記表(p.111)の記載要領にも置かれています。一方で、個人用の様式第18号・第19号の記載要領(p.126・p.129)には、この但書はありません。
もっとも、会社法上の大会社に当たる規模の建設会社は限られますので、岡山県内の中小建設業者であれば、実際には千円単位一択と考えて差し支えありません。
6-3. 有効数字がない科目は、科目名の記載自体が要らない
これは知っておくと作業が軽くなるルールです。
金額の記載に当たって有効数字がない場合においては、科目の名称の記載を要しない。
(手引 PDF p.99・p.102・p.126・p.129)
該当する金額が無い科目は、行ごと空けてよいということです(完成工事原価報告書の4区分だけは §4-3 のとおり「0を記入」なので、扱いが逆である点に注意してください)。
また、流動資産・有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産・流動負債・固定負債に属する科目の掲記が「その他」のみである場合は、科目の記載を要しないとされています(手引 PDF p.99)。
6-4. 「その他」に埋もれさせてはいけない金額のライン
逆に、金額が大きくなると「その他」でまとめておけなくなります。
- 流動資産・有形固定資産・無形固定資産又は投資その他の資産の「その他」に属する資産で、その金額が資産の総額の100分の5を超えるものは、当該資産を明示する科目をもって記載する(手引 PDF p.99)
- 「雑費」に属する費用で販売費及び一般管理費の総額の10分の1を超えるものは、それぞれ当該費用を明示する科目を用いて掲記する(手引 PDF p.102・法人/p.129・個人)
- 「材料貯蔵品」「短期貸付金」「前払費用」「特許権」「借地権」「のれん」は、その金額が資産の総額の100分の5以下であるときは、それぞれ流動資産の「その他」・無形固定資産の「その他」に含めて記載することができる(手引 PDF p.99)
100分の5(資産)と10分の1(雑費)——この2つのラインを覚えておくと、「その他」に何をどこまで押し込めるかの判断が付きます。なお、雑費のラインについては、法人(p.102)と個人(p.129)で読点と数字の表記が微妙に違います(個人側は「費用で、」「10分の1」)。逐語で引用するときは、引くページを固定してください。
6-5. 記載要領そのものは提出しない
細かいですが、毎年間違える方がいる点です。各様式の記載要領には、冒頭に「この要領を提出する書類に印刷して添付する必要はありません。」という一文が置かれています(手引 PDF p.99・p.102・p.105・p.111・p.126・p.129 ほか)。手引をそのまま印刷して綴じると、記載要領のページまで一緒に綴じてしまいます。
7. 注記表は全項目を埋める書類ではない/附属明細表は誰が出すのか
法人の方が財務諸表でいちばん手を止めるのが、注記表(様式第17号の2)です。項目が18項目(枝番を含めて20行)並んでいるからです。
7-1. ★記載を要する注記は、会社の区分によって違う
結論から言えば、岡山県の中小建設会社の多くは、20行のうち6行だけ書けば足ります。
注記表の記載要領には「記載を要する注記は、以下のとおりとする。」という表があり、列が会社区分(株式会社=会計監査人設置会社/会計監査人なし・公開会社/会計監査人なし・株式譲渡制限会社、および持分会社)、行が注記項目というマトリクスになっています。凡例は「○・・・記載要、×・・・記載不要」です(手引 PDF p.111)。
| 会社区分 | 記載を要する注記 |
|---|---|
| 会計監査人設置会社 | 20行すべて |
| 会計監査人なし・公開会社 | 1/4-2/5/17/17-2 を除く15行 |
| 会計監査人なし・株式譲渡制限会社 | 2 重要な会計方針/3 会計方針の変更/4 表示方法の変更/6 誤謬の訂正/9 株主資本等変動計算書関係/18 その他 の6行 |
| 持分会社(合同会社等) | 上記から 9 を除いた5行(2/3/4/6/18) |
(手引 PDF p.111。この表はテキストとしては列の対応が崩れて読めないため、当事務所で PDF のページを画像として描画し、目視で全行を確認しています。)
株式の譲渡制限を定款に置いている非公開の株式会社——岡山県の建設会社の大半がこれに当たります。その場合、埋めるのは上表の6行です。「20項目もある」と身構える必要はありません。
7-2. ただし、「該当なし」は書かなければならない
書く行が6つに減る一方で、書くと決まった行は空欄にできません。
・記載を要する項目は、該当がない場合も「該当なし」として必ず記入してください。
・各項目ごとの記載の要・不要は記載要領にて確認してください。
(手引 PDF p.107・注記表の記入例に付された「<全項目共通の注意点>」)
記載要領の側も「注に掲げる事項で該当事項がない場合においては、『該当なし』と記載すること。」としています(手引 PDF p.111)。空欄と「該当なし」は別物です。
7-3. ⛔ 収益認識の基準を、岡山県が指定しているわけではない
注記表の記入例には、「2 重要な会計方針」の(4) 収益及び費用の計上基準として「工事完成基準(ただし工期2年以上かつ請負代金1億円以上は工事進行基準)」という文字列が印字されています(手引 PDF p.107)。
これは記入例の文字列であって、岡山県が採用すべき基準を定めたものではありません。 記載要領が求めているのは、「完成工事高及び完成工事原価の認識基準、決算日における工事進捗度を見積もるために用いた方法その他の収益及び費用の計上基準について記載する」ことです(手引 PDF p.112)。自社が採っている基準を書く欄であって、記入例の文言を写す欄ではありません。
どの基準を採るかは会計上の判断であり、行政書士の業務範囲を超えます。顧問税理士にご確認のうえ、実際に採用している基準を記載してください。
7-4. 附属明細表は「ほぼ該当しない」——ただし表現がページで揺れる
附属明細表(様式第17号の3)は、様式そのものに作成が必要な場合が明記されています。
注 この明細表は下記の場合において作成を行うこと。
・株式会社において資本金額が1億円を超える場合
・貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上の場合
(手引 PDF p.115)
同じページには「この様式は、次の場合を除き添付不要です。」という案内も付いています。資本金1億円超、または負債合計200億円以上——岡山県の中小建設業者であれば、通常は該当しません。
審査要領は同じ条件を裏返して「小会社(資本金1億円以下、かつ、負債の部が合計額が 200 億円未満)でない株式会社の場合は、附属明細表も併せて提出すること」と書いています(審査要領 PDF p.27)。内容は同じですが、条件の主語や表記がページによって「資本金額」「資本金の額」「株式会社」「法人」と揺れます。該当しそうな規模の会社は、県の窓口へ個別にご確認ください。
なお、注記表と附属明細表は「大会社かどうか」とは別の判定軸です。§6-2 の百万円単位は会社法第2条第6号の大会社、附属明細表は資本金1億円超・負債200億円以上——似た数字が並びますが、別の基準です。
8. 数字は突き合わされる——株主資本等変動計算書と事業報告書まわりの3本
財務諸表の記入例には、岡山県が「■要チェック!!■」という吹き出しを何本も付けています。手引が「一致しているか十分検証した上で作成してください」と念を押しているとおり(手引 PDF p.130)、どこかを直すと別の帳票に波及する構造になっています。
このうち、工事施工金額と完成工事高/完成工事原価報告書と完成工事原価/資産合計と負債純資産合計/個人の事業主利益という4本については、決算変更届(事業年度終了報告)とは|毎年の提出義務と流れと建設業許可が不許可・不受理になる主な理由が扱っていますので、そちらをご覧ください。本記事は、法人にしか無い残りの3本を押さえます。
8-1. 貸借対照表の純資産の部 ⇄ 株主資本等変動計算書の当期末残高
貸借対照表の純資産の部には、次の吹き出しが付いています。
この点線で囲った部分の各金額は、様式第17号(株主資本等変動計算書)の当期末残高 【p100の⑩の部分】と完全に一致させてください。
(手引 PDF p.98。【 】内は手引の紙面ページへの相互参照)
株主資本等変動計算書の側にも、対になる吹き出しがあります(手引 PDF p.104)。自己資本の額は、まさにこの純資産合計を見て判定されます(自己資本500万円が足りないとき)ので、2枚が食い違っていると、要件の判定そのものが止まります。
株主資本等変動計算書には、記入例に「ここへは当期変動額の合計を記載しますが、記載漏れが多いため、注意してください」という注記も入っています(手引 PDF p.104)。県が「記載漏れが多い」と書いている数少ない箇所の1つです。
8-2. 損益計算書の当期純利益 ⇄ 株主資本等変動計算書の当期純利益
損益計算書の末尾にも吹き出しがあります。
■要チェック!!■ ここは、様式第17号(株主資本等変動計算書)の当期純利益 【p100の⑨の部分】と完全に一致させてください。
(手引 PDF p.101。【 】内は手引の紙面ページへの相互参照)
損益計算書 → 株主資本等変動計算書 → 貸借対照表という3枚の連鎖です。§8-1 と合わせると、利益を1円動かすと3枚に波及することが分かります。財務諸表を作り終えた後に決算の数字を修正すると、この連鎖を全部たどり直すことになります。
8-3. 株式会社は、事業報告書とも一致させる
株式会社が事業年度終了報告に添付する事業報告書にも、3本の吹き出しが付いています(手引 PDF p.120)。
この点線部分の各金額は、様式第3号(直前3年の各事業年度における工事施工金額)の施工金額と完全に一致させてください。
この実線部分の各金額は、様式第16号(損益計算書)の完成工事高、兼業売上高等と完全に一致させてください。
今回の決算報告対象年度分については、様式第16号(損益計算書)の売上高合計額、当期純利益(損失)と完全に一致させてください。
損益計算書の記入例の側にも「<株式会社の場合>事業報告書とも整合させる。」という一文が添えられています(手引 PDF p.100)。
事業報告書の記入要領は、さらに具体的です。「(2) 当期の受注高・売上高・繰越高」については、許可を受けた業種ごとに当期売り上げの状況を記載し、売り上げ実績がなかった業種についても項目を立てた上0を記載して、許可のある業種が分かるようにしておくことを求め、ここに記載する売上高は様式第3号の業種ごとの計と一致することになるとしています(手引 PDF p.122)。
つまり、株式会社の場合、突合の相手は財務諸表の中だけでは閉じません。 事業報告書まで含めて数字が揃って、はじめて完成です。
8-4. 事業報告書の「株主の状況」欄は、届出漏れの検知器になっている
事業報告書の記入例には、株主の状況(上位7名以上の大株主について記載)という欄があり、持ち株数にかかわらず上位7名までは記載するよう指示されています(手引 PDF p.121)。
同じページには、任意の様式を使う場合の注意も付いています。任意様式を使うこと自体は差し支えないとしたうえで、株主の状況に係る記載欄のない任意様式を用いると、株主等の届出の状況を確認しにくくなるため、届出漏れによる監督処分を受ける可能性が高まると県が留意を促しています(同)。
会社法上の事業報告書を別途作っている会社は、それを添付してよいとされています(手引 PDF p.122)。ただしその様式に株主の状況欄が無いと、株主等の変更届の出し忘れに誰も気づけなくなる——県はそう言っているわけです。
株主等に関する届出も含めた変更届の全体像は、建設業許可の変更届|出来事から逆引き・届出漏れの点検にまとめています。財務諸表を作る作業の中で、毎年ここを点検できるというのは、実は事業年度終了報告の副次的な効用です。
9. どの申請に、どの財務諸表が要るのか——添付の要否と、作った後に効いてくること
最後に、「そもそもいつ財務諸表を出すのか」を整理します。ここには、書けることと書けないことがはっきり分かれる部分があります。
9-1. 新規申請では添付する——決算を迎えていなくても
新規申請の注意点として、手引は「新規設立法人等で決算を迎えていない場合でも添付が必要」とし、創業時の状況を記載する(通常は資本金に関する記載のみとなる)としています(手引 PDF p.152)。設立したばかりの会社が「決算が無いから財務諸表は付けられない」と省略することはできません。
新設法人の資本金設計や創業時の財務諸表の考え方は設立したばかりの会社で建設業許可は取れる?が本家として扱っています。
9-2. 更新・追加・般特新規では、申請書に財務諸表が入らない
一方、更新申請・業種追加・般特新規では扱いが変わります。審査要領は、特定建設業に係る申請(更新及び業種追加)について「申請書に財務諸表が含まれないので、申請者からの直近の事業年度終了報告書により、財産的要件を満たしているかどうかを判断する」と明記しています(審査要領 PDF p.26)。
手引 PDF p.169 の書類一覧表を見ても、第15号〜第19号の行は「新規申請」の列にのみ記載があり、更新申請・追加申請般特新規申請の列は空欄になっています。毎年の事業年度終了報告で財務諸表を出しているから、申請書には重ねて入れないという構造です。
ただし、次の点は書き切れませんので、そのように書きます。
⚠️ 「更新では財務諸表は絶対に不要」と断定した文は、手引にも審査要領にもありません。 一覧表の列が空欄であること、そして審査要領が明言しているのは特定建設業の更新・業種追加についてであること——ここまでが資料から言えることです。例外もあります(§9-3)。個別の申請でどの様式を綴じるかは、必ず窓口または当事務所にご確認ください。
例外として資料に明記されているのは、新規設立法人が1度目の決算を迎えないままに追加申請(般特新規申請)をする場合です。この場合、自己資本の額は設立時の財務諸表により確認するとされています(審査要領 PDF p.28)。一般と特定を切り替える手続きの区分そのものは般特新規とは|建設業許可を一般と特定で切り替える区分判定が、特定建設業の財務要件(4つの基準)は特定建設業許可の財産的基礎|4基準の計算式と当てはめが担当します。
9-3. ★「何期分添付するのか」という明文は、どこにも無い
これは、他県の記事を読み比べても答えが割れる論点です。岡山県の手引・審査要領には、財務諸表を何期分添付するかを書いた文がありません。
- 手引 PDF p.169 の一覧表は「法人のみ」「個人のみ」としか書いておらず、期数を書いていません。
- 財務諸表の表紙(法人用 p.94・個人用 p.123)の「事業年度 自〜至」欄は1事業年度分しかありませんが、「1期分でよい」と明記した文はありません。
- 「直前3年」は様式第3号(直前3年の各事業年度における工事施工金額)の名称であって、財務諸表の期数ではありません(手引 PDF p.52)。
- 決算期を変更した場合に「最低4期分の記載が必要」とされているのも、様式第3号についてです(手引 PDF p.53)。財務諸表側に決算期変更の定めはありません。
したがって、本記事は判定側の文言で書きます。一般建設業の自己資本については「原則として既存の企業については直近の事業年度終了報告の、新規設立の企業については創業時の財務諸表により行います」(手引 PDF p.10)、特定建設業の財務要件については「許可申請時直前の決算期の財務諸表(新規設立の場合は創業時の財務諸表)で、次の全ての要件を満たすこと」(手引 PDF p.11)。見られているのは「直前の決算期」の1組である、というのが資料から言える形です。
「何期分と手引に書いてある」とは書けません。 ここを断定している解説を見かけたら、根拠のページを確かめてください。
9-4. 作った財務諸表は、そのまま次の判定材料になる
財務諸表は「出して終わり」の書類ではありません。直近の財務諸表で自己資本500万円以上が確認できれば、残高証明書を改めて添付する必要がなくなります(手引 PDF p.149)。同じ文は続けて、更新・追加・般特新規申請の場合は「許可申請直前の過去5年間、許可を受けて継続して営業した実績を有する者」も不要である、としています。
- 自己資本500万円の判定と、足りないときの打ち手(増資・借入・残高証明の3択)は自己資本500万円が足りないとき
- 残高証明書の証明日・受付日から1か月・複数金融機関の同日付といった段取りは建設業許可の残高証明書はいつ・いくら必要?
つまり、財務諸表の出来が、次の申請で用意する書類の量を左右します。 これが「毎年きちんと作る」ことの実利です。
9-5. 財務諸表は「閲覧用」に分類される——取引先にも同業者にも見られる前提で作る
意外に知られていない点です。手引 PDF p.169 の一覧表で、第15号〜第19号は「①提出書類(閲覧用)」の側に並んでいます。閲覧制度そのものについては、受け付けた書類のうち法令で閲覧対象となっているものが、受付後一定期間、県庁土木部監理課及び所轄県民局で一般の方に無料で閲覧に供されること、そして「顧客・取引先・同業者・調査会社等、多数の目に留まることになります」と県が明記しています(手引 PDF p.24)。閲覧の詳細は決算変更届(事業年度終了報告)とは|毎年の提出義務と流れをご覧ください。
もう1つ、提出とは別に確認される書類があります。新規申請の営業所調査では、「財務内容の確認のための必要書類」として、確定申告書の控え(税務署での収受印のある原本又は申告書等情報取得サービスで取得した税務署提出日が分かる申告書控え)・決算書原本等が確認されます(手引 PDF p.18)。「提出する財務諸表」と「調査で見られる決算書原本」は別物です(決算書や確定申告書そのものは、p.169 の提出書類一覧には載っていません)。営業所調査での財務内容の確認については自己資本500万円が足りないときに詳しく整理しています。
9-6. 出さないとどうなるか——2段階で正確に押さえる
最後に、毎年の提出を落とした場合の扱いです。ここは片方だけ読むと真逆になるので、2段階で書きます。
- 遅れた事業年度終了報告そのものは、受け付けてもらえます。 審査要領は、事業年度終了報告(提出期限の定めがあるものは全て)について、届出書の提出日が法定の提出期限の2倍を超えて遅延した場合には、業務改善報告書の提出を受けた上で届出を受付するとしています(審査要領 PDF p.36〜37)。
- ただし、それを出し切るまでは許可申請の受付が止まります。 手引は「事業年度終了報告等の変更届が法定期限内に提出されていない場合、更新申請等の受付はできません」としています(手引 PDF p.155)。
そして、変更届の未提出に紐づく監督処分は指示処分です。監督処分基準の本文が、建設業法第11条違反等について「指示処分を行うこととする」と定めています(手引 PDF p.203)。同じ基準書の近くに並ぶ営業停止の日数は、虚偽申請や技術者の不設置など別の類型の量定であって、届出の出し忘れの量定ではありません。また、監督処分基準は法律ではなく岡山県の内部基準です。
未提出が溜まってしまった場合の復旧の手順、業務改善報告書の中身、何期分をどの順序で作るかについては、決算変更届を出していないとどうなる|未提出が溜まったときの対処が本家として扱っています。更新期限が迫っている場合は建設業許可が更新できないとき|残り日数別の立て直し手順もあわせてご覧ください。
9-7. どこまで社内で持ち、どこから依頼するか
ここまで見てきたとおり、財務諸表の作成は「決算書を写す」作業ではなく、建設業法の分類に沿って並べ直す作業です。判断が必要になるのは、おおむね次の5か所に集約されます。
| 判断が要る場所 | 何を決めるか | 本記事の該当箇所 |
|---|---|---|
| 完成工事高と兼業事業売上高の切り分け | どの売上が建設工事でないか | §2-2 |
| 消費税の方式と、科目ごとの含む/除く | 税込か税抜か・完成工事未収入金と工事未払金の扱い | §3-1・§3-2 |
| 労務費と経費の割り直し | 法定福利費・福利厚生費をどちらに載せるか | §4-2 |
| 売上原価と販管費のあん分 | 同一人の人件費をどう割るか | §5-2 |
| 注記表の記載範囲 | 自社の会社区分でどの行が必要か | §7-1 |
このうち、上の4つは決算の作り方そのものに関わるため、顧問税理士との連携が要ります。逆に言えば、決算の段階で「工事に従事する職員とそれ以外」を区別して集計しておけば(手引 PDF p.100)、毎年の作業は大幅に軽くなります。
当事務所では、事業年度終了報告(財務諸表・工事経歴書等一式の作成と提出代理)を44,000円(税込)でお受けしています。金額は目安であり、兼業の有無・業種数・工事件数といった案件の内容によって変動します。正確な金額は事前にお見積りします。
毎年の期限そのものを落とさないための仕組みとしては、顧問契約(月額5,500円(税込)〜の3プラン)をご用意しています。期限管理(いつ何を出すかのご案内)は顧問の範囲、申請・届出の代理実行はスポットの報酬という切り分けです。フルプラン(月額15,000円・税込)には事業年度終了報告のほか、経営事項審査(経営状況分析・経営規模等評価/総合評定値請求)と入札参加資格の更新まで含まれます。公共工事を視野に入れている場合は、財務諸表の作り方が経審の評点に直結しますので、早い段階から経審申請を岡山で依頼するならもご覧ください。
よくある質問(FAQ)
まとめ
建設業許可の財務諸表は、「決算書を県の様式に写す」書類ではなく、「建設業法の勘定科目に並べ直す」書類です。本記事で整理した要点は次のとおりです。
- 様式の構成:法人は貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書・株主資本等変動計算書・注記表の5枚(様式第16号が2枚を含む)。個人は貸借対照表と損益計算書の2枚で、完成工事原価報告書という独立様式は存在せず、原価の4区分は様式第19号の売上原価欄に組み込まれています。持分会社は「株主資本」を「社員資本」と読み替えます。両面印刷指定です。
- 勘定科目:売掛金は完成工事未収入金、仕掛品にあたるものは未成工事支出金、買掛金は工事未払金、前受金は未成工事受入金。分かれ目は「完成工事高に計上したかどうか」です。
- 消費税:税抜方式でも完成工事未収入金と工事未払金は消費税額を含み、完成工事高は除きます。方式を申告する欄は、法人=注記表の2(5)、個人=様式第18号末尾の「注」。税込で作るなら各帳票の右肩に「税込」と記載します。
- 原価:完成工事原価報告書は材料費/労務費(うち労務外注費)/外注費/経費(うち人件費)の4区分。工事に従事した職員の法定福利費・福利厚生費は労務費ではなく「経費」——岡山県が「税務申告では合算してしまう例が多い」と名指しした箇所です。
- あん分:同一人が販売や一般管理にも従事した場合は「適宜あん分するなどして」計上します。率も方法も、手引・審査要領のどこにも定められていません(「あん分」の語は手引の1か所だけ)。
- 注記表:全項目を埋める書類ではありません。会計監査人なしの株式譲渡制限会社は6行、持分会社は5行。ただし書くと決まった行は「該当なし」を必ず記入します。附属明細表は資本金1億円超・負債200億円以上の会社だけです。
- 突合:貸借対照表の純資産の部⇄株主資本等変動計算書の当期末残高、損益計算書の当期純利益⇄株主資本等変動計算書、そして株式会社は事業報告書とも一致——1円動かすと3枚に波及します。
- 添付の要否:新規は決算未到来でも添付。更新・追加・般特新規では申請書に財務諸表が入らず、直近の事業年度終了報告で判断されます。ただし「何期分」という明文は資料にありません。
そして、この書類は閲覧用に分類されます。 取引先も同業者も調査会社も見られる前提で作られる書類だ、ということです。
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