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実務経験は業種をまたいで通算できる?期間の重複【岡山】

実務経験は業種をまたいで通算できる?期間の重複【岡山】

業種追加や2業種同時の新規申請を考え始めた方から、よく出るのがこの質問です。

「うちの職人は、とび・土工も解体もずっとやってきた。同じ10年で両方の営業所技術者(旧:専任技術者)になれますか?」

結論から言えば、原則としてできません。岡山県の審査要領は「実務経験で2業種以上の営業所技術者等になる場合、それぞれの実務経験期間が重複することは認めていない」と明記しており、手引も「この期間はひとつの業種について必要な年数であり、同一期間に複数の業種を並行して計上することはできません」と書いています(審査要領 PDF p.24/手引 PDF p.165)。資格を持たない方が2業種を担当するなら、業種ごとに10年、合計20年分の経験を証明することになります(手引 PDF p.82)。

ただし、「原則」と書いたのは、明文の例外が2つあるからです。

  1. 解体工事業の経過措置——一定の条件を満たす場合に限り、「とび・土工工事業」と「解体工事業」で同一期間の実務経験を使えます(審査要領 PDF p.24)
  2. 実務経験要件の緩和——技術的な共通性がある業種の間では、実務経験の振替えが認められ、2業種で通常20年のところが最短16年になります(手引 PDF p.167)

そしてもう1つ、まったく別のルールと混同されているのがこの論点の厄介なところです。特定建設業で使う指導監督的実務経験証明書(様式第10号)は、様式第9号に記載した期間と重複しても差し支えありません(手引 PDF p.85/審査要領 PDF p.25)。「重複してよいと聞いた」という話の出どころは、たいていこちらです。

本記事では、岡山県で建設業に特化する行政書士が、業種をまたぐ重複の原則と2つの例外、そして混同されやすい別ルールを、岡山県の「建設業許可の手引」「審査要領」に書かれていることだけで切り分けます。実務経験10年ルートそのもの(どんな書類で証明するか、誰に証明してもらうか、何年必要か)は営業所技術者(旧:専任技術者)の実務経験10年を証明する方法にまとめてありますので、まずそちらをご覧ください。 本記事は、その手順を前提に「業種を2つ以上狙うときだけ効いてくる制約」に限定した記事です。

※ 実務経験がどの業種の何年分として認められるかは、実際の工事内容・書類の残り方・過去の申告履歴という個別の実態によって判断が分かれます。本記事は岡山県知事許可を前提とした一般的な整理であり、特定の方について結論を保証するものではありません。最終判断は有資格者(行政書士)または岡山県の担当窓口にご確認ください。

1. 用語の整理|「通算」という言葉が指している場面は3つある

この論点が噛み合わないのは、「通算」という一語で、性質のまったく違う3つの場面が語られているからです。まず、そこを分けます。

場面何を問題にしているか答えの方向主な出典
A. 時間方向1つの業種の中で、工期と工期の間に空白があるとき、その期間を年数に入れられるか空白が3か月以内なら継続とみなし、4か月以上ならその期間を控除する手引 PDF p.83/審査要領 PDF p.24
B. 業種方向1人が複数業種の営業所技術者になるとき、同じ期間を2つの業種で使えるか原則できない(例外は §3・§4)手引 PDF p.165・p.82/審査要領 PDF p.24
C. 種類方向実務経験(様式第9号)と指導監督的実務経験(様式第10号)の期間が重なってよいか重複しても差し支えない手引 PDF p.85/審査要領 PDF p.25

「業種をまたいで通算できますか」という質問は、このうちBです。 ところが、ネット上や現場の会話では、Cの「重複してよい」という話が混ざって伝わることが少なくありません。BとCは、そもそも扱っている書類も要件も違います。

1-1. ★「通算」は制度の言葉ではない——窓口で噛み合わない理由

細かい話に見えて、実務では効く注意点です。岡山県の「建設業許可の手引」と「審査要領」を通しで探しても、「通算」という語は、手引の様式第9号の記載例の注記に1か所出てくるだけです(「通算10年5か月から4か月をマイナスして…」=手引 PDF p.81)。しかもそれは、上の表でいうAの、空白期間を差し引く計算を説明した箇所です。

制度が使っている言葉は、「重複」と「振替え」です。

  • 重複……同じ期間を2つの業種で計上すること(原則として認められない)
  • 振替え……ある業種の実務経験を、別の業種の実務経験としてカウントすること(実務経験要件の緩和の枠内でのみ認められる。§4)

したがって、「通算できますか」と尋ねても、制度の側にその語がないため、質問と回答がずれたまま進んでしまうことがあります。相談の場では「同じ期間を2業種で重ねられるか」「他業種の経験を振り替えられるか」と分けて聞くほうが、正確な答えに早く届きます。本記事でも、以降は説明の便宜で「通算」の語を使いますが、手引・審査要領がその語で定めを置いているわけではないという点は押さえておいてください。

1-2. 前提|1人が複数の業種を担当すること自体は認められている

そもそも、なぜこの問いが生まれるのか。1人の技術者が複数業種の営業所技術者を兼ねること自体は、制度上まったく問題がないからです。手引は様式第8号(営業所技術者等証明書)の説明で、次のとおり明記しています。

「営業所技術者等は、営業所ごとに選任する必要がありますが、必要な資格を有する場合、1名が複数の業種を担当することができます。」(手引 PDF p.79)

ポイントは「必要な資格を有する場合」です。国家資格で複数業種をカバーしている人であれば、資格者証を業種ごとに添付するだけで済みます。問題になるのは、その「資格」を実務経験で代替する場合です。営業所技術者の要件の入口は、手引 PDF p.9 に①国家資格等、②指定学科の卒業+実務経験(高校・専修学校専門課程は5年/大学・高専・専門士等は3年)、③1級の第1次検定又は第2次検定の合格+3年、④2級の第1次検定又は第2次検定の合格+5年、⑤その業種について10年以上の実務経験——の5つが並んでいます。このうち②〜⑤は、いずれも実務経験の年数を伴い、様式第9号(実務経験証明書)の添付と、県民局調査での工事実績の立証を必要とします(手引 PDF p.9)。

5ルートの中身と、業種別にどの資格が使えるかは営業所技術者になれる資格一覧|業種別の対応国家資格に整理しています。資格でカバーできる業種が1つでもあるなら、この記事の制約は一気に軽くなります。 実務経験の設計に入る前に、まず資格側を当たるほうが早い、というのはそのためです。

2. 原則|同じ期間を2つの業種に重ねて計上することはできない

ここが本記事の本丸です。同じ10年を、とび・土工と解体の両方に使う——という発想は、原則として通りません。根拠は手引と審査要領の両方にあります。

2-1. 手引の定め——「同一期間に複数の業種を並行して計上することはできません」

手引は、実務経験で営業所技術者になる場合の期間の確認について、次のように書いています。

「なお、この期間はひとつの業種について必要な年数であり、同一期間に複数の業種を並行して計上することはできませんので注意してください。」(手引 PDF p.165)

「並行して計上することはできない」——つまり、平成26年から令和6年までの10年間という1本の期間を、とび・土工の10年としても解体の10年としても使う、ということが認められていません。

2-2. 審査要領の定め——本記事の起点

岡山県の審査要領は、様式第9号(実務経験証明書)の項で、より直接的に書いています。

「実務経験で2業種以上の営業所技術者等になる場合、それぞれの実務経験期間が重複することは認めていない」(審査要領 PDF p.24)

この一文が、本記事の起点です。「認めていない」という書きぶりであり、事案によって判断が分かれる余地を残した表現ではありません。 ただし、この文はここで終わらず「が、」と続きます。続きが §3 の解体工事の経過措置です。

2-3. 帰結——2業種を実務経験だけで満たすなら合計20年

手引は、様式第9号の作成枚数の説明で、この原則を数字に落として示しています。申請業種ごとに分けて作成し、一人が複数の業種をいずれも実務経験で担当する場合、担当する期間の重複は認められず、資格を有しない者が2業種を担当するなら業種ごとに10年間・合計20年間の経験を証明する必要がある、という内容です(手引 PDF p.82。この箇所の逐語の定めは実務経験の証明書類が揃わないときに一本化してあります)。

20年という数字の意味を、正確に押さえてください。禁じられているのは同じ期間を二重に数えることであって、期間を分けて使うこと自体ではありません。仮に20年勤続していて、その20年間ずっと両方の工事に携わってきたとしても、同じ20年をとび・土工と解体の双方に重ねて計上することはできません。一方で、重ならないように分けて使うこと——例えば前半の10年をとび・土工、後半の10年を解体として組む——は、この原則が禁じているところではありません。ただしその場合は、それぞれの期間について、その業種の工事であることを契約書(原本)又は注文書(原本)及び請書(写し)等で立証する必要があります(手引 PDF p.18・p.165)。「20年働いていれば自動的に2業種取れる」のではなく、「2業種のそれぞれについて10年ずつ、重ならない別々の期間があり、しかもその各期間をその業種の工事で埋められる」ことが要る——これが手引 PDF p.82 の意味です。

2-4. 様式第9号は「業種ごと・証明者ごと」に別葉で作る

書式の側も、この原則を前提に組まれています。様式第9号の記載要領は、許可を受けようとする建設業に係る建設工事の種類ごとに、被証明者1人について、証明者別に作成することと定めています(手引 PDF p.81 記載要領1)。

つまり、2業種を実務経験で狙うなら、証明書は最低でも2通になります。さらに、勤務先が複数にまたがっていれば証明者ごとに分かれるため、通数はさらに増えます。「証明書が何通必要になるか」は、着手前に必ず数えておくべき項目です。証明者が複数に分かれるほど、相手方の協力を取り付ける手間と時間が増えます。

2-5. ★一度証明に使った期間を、あとから別の業種に振り替えることもできない

見落とされやすいのが、時間差で使い回すという発想です。「今回はとび・土工で許可を取り、数年後に同じ期間の経験で解体を追加すればいい」——これも封じられています。

「一度ある業種について証明した実務経験の期間については、別の業種に振り替えることはできない。」(審査要領 PDF p.24)

同時に申請しようが、後から業種追加しようが、扱いは変わらないということです。ここは業種追加のスケジュールを考えるうえで決定的に効きます。「とりあえず1業種で取っておいて、後で足す」という進め方自体は一般的ですが、後から足す業種には、その業種のための別の期間が要るという前提で組む必要があります。業種追加の手続そのものは建設業許可の業種追加|手続きと必要書類に整理しています。

2-6. 同じ工事を、別の業種として書き直すこともできない

もう1つ、書類の側の縛りがあります。手引の様式第9号の記載例には、同じ工事について過去に事業年度終了報告や他の技術者の実務経験証明等で報告したものと違う業種で記載することは認められない旨の注記が置かれています(手引 PDF p.81)。

これは、会社が過去に県へ出してきた申告の履歴と、今回の実務経験証明書が突き合わせられるということを意味します。ある工事を、決算変更届の工事経歴書では「とび・土工」として報告しておきながら、今回の実務経験証明書では「解体」として書く——という組み替えは通りません。業種の割り振りは、その場の都合で決められるものではなく、会社の申告履歴として既に固定されている部分がある、と考えてください。

ここまでのまとめ:業種方向の重複は、①同時に使えない(手引 PDF p.165・審査要領 PDF p.24)②後から振り替えることもできない(審査要領 PDF p.24)③同じ工事を別業種として書き直すこともできない(手引 PDF p.81)——という三重の構造で封じられています。「うまく書けば通る」という余地がある領域ではありません。 以下の §3・§4 で見る2つの例外だけが、明文で開いている道です。

3. 例外①|解体工事業の経過措置——重複が明文で認められる唯一の場面

審査要領が「重複することは認めていない」と書いた直後に、唯一の例外として置いているのが、解体工事業に関する経過措置です。逐語で確認します。

「…重複することは認めていないが、平成28年5月31日までに『解体工事』の実務経験(10年又は学歴+3年ないしは5年等)で『とび・土工工事業』の許可を取得している業者について、同じく実務経験で『解体工事業』の許可を取得する場合については、『とび・土工工事業』と同一期間の実務経験を『解体工事業』の実務経験として申請することができる。

 重複を認める期間については、平成28年6月1日の法施行前の経験期間についてのみとする。」(審査要領 PDF p.24)

3-1. 背景——解体工事業は途中から独立した業種

なぜこの例外があるのか。解体工事業は、平成28年6月1日に新たな業種として設けられたためです。それ以前、解体の工事は「とび・土工・コンクリート工事」の中で扱われていました。つまり、法施行前に解体工事の実務経験を積んでいた人は、その経験をとび・土工の実務経験として使い、とび・土工工事業の許可を取っていたことになります。

そこで、その人が改めて解体工事業の許可を取ろうとするとき、「同じ期間をもう一度、解体工事業のために使ってよい」という取扱いが用意されました。制度の切り替えによって不利益が生じないようにするための措置であり、業種をまたぐ重複を一般に認めたものではありません。解体工事業の許可そのもの(登録との違いを含む)は解体工事業の建設業許可|登録との違いに、とび・土工・コンクリート工事業はとび・土工工事業の建設業許可に整理しています。

3-2. 条件を1つずつ確認する

この経過措置は、条件がかなり絞られています。表で分解します。

#条件見落としやすい点
1平成28年5月31日までに「解体工事」の実務経験で「とび・土工工事業」の許可を取得している業者であること許可の取得時期そのものが条件。法施行後にとび・土工の許可を取った場合は対象外
2とび・土工の許可の根拠が実務経験(10年又は学歴+3年ないしは5年等)であること資格で取っていた場合は、そもそも「重複」の問題が起きない
3解体工事業を同じく実務経験で取得しようとする場合であること解体側を資格で取るなら、この措置を使う必要がない
4重複を認める期間は平成28年6月1日の法施行前の経験期間についてのみ法施行後の期間は、通常どおり業種ごとに別々の期間が必要

条件4は特に重要です。平成28年6月1日以降の期間については、通常どおり重複が認められません。 令和8年の時点で見れば、法施行からすでに10年近くが経過しており、この措置が効くのは「法施行前から続く経歴」を持つ方に限られるということになります。

3-3. ★「重複してよい」は「証明書を1通にしてよい」という意味ではない

この経過措置で最も誤解されるのがここです。審査要領は続けて、次のように釘を刺しています。

「なお、あくまで実務経験期間の重複を認めるに過ぎないため、重複期間内に足場などの『とび・土工・コンクリート工事』の実務経験と『解体工事』の実務経験を有する者が、新たに『とび・土工工事業』と『解体工事業』の許可を取得する場合には、実務経験証明書は『とび・土工・コンクリート工事』のものと『解体工事』のものとの両方が必要となる。

 また、既に足場などの『とび・土工・コンクリート工事』の実務経験により『とび・土工工事業』の許可を有する者が、重複期間内の『解体工事』の実務経験で新たに『解体工事業』の許可を取得する場合には、『解体工事』の実務経験証明書が必要となる。」(審査要領 PDF p.24)

つまり、認められるのは「期間が重なっていてもよい」という一点だけであって、書類の手間は減りません。解体工事業のために、解体工事の実務経験証明書を改めて作る必要があり、そこに記載する工事は、当然ながら解体工事でなければなりません。「とび・土工で出した証明書のコピーで足りる」わけではないのです。

準備の実質は「もう1業種分の立証」です。 期間が重なることが認められるだけで、工事の中身と裏付け書類は別途必要になる、と理解してください。

3-4. 解体は資格側にも特則がある

あわせて押さえておきたいのが、解体工事業は資格側にも独自の条件が付いている点です。手引の資格一覧表の注記には、平成27年度までの合格者については、解体工事について資格取得後1年以上の実務経験を有するか、又は登録解体工事講習を受講していることが必要である旨、そして一部の資格については当面、解体工事について資格取得後1年以上の実務経験又は登録解体工事講習の受講が必要である旨が置かれています(手引 PDF p.164 注6・注7)。

「資格を持っているから解体はすぐ足せる」とは限らないということです。資格の取得年度によって扱いが変わるため、合格証明書の年度を確認したうえで判断する必要があります。資格ごとの対応関係は営業所技術者になれる資格一覧をご覧ください。

4. 例外②|実務経験要件の緩和——技術的な共通性がある業種間の振替え

もう1つの例外は、審査要領ではなく手引の資料編に置かれています。「5 営業所技術者等の実務経験要件の緩和」(手引 PDF p.167)です。業種をまたぐ話としては、実務上こちらのほうが使う場面が広いにもかかわらず、資料編の後ろのほうにあるため見落とされがちです。

手引は、この緩和の趣旨を次のように説明しています。

「許可を受けようとする業種に関して10年以上の実務経験を有していれば、許可要件の一つである営業所技術者等となる資格を有することができますが、その業種の経験だけに限らず、許可を受けようとする業種と技術的な共通性がある他の業種での実務経験であれば、一定の範囲内で、許可を受けようとする業種の実務経験としてカウントすることができます。」(手引 PDF p.167)

4-1. 対象になるルートが限られている(★最初の関門)

まず、誰でも使えるわけではありません。

「建設業法第7条第2号ロ該当(10年以上の実務経験)について、実務経験要件が緩和されます。同条第2号イ該当(学歴+実務経験)の場合では認められません。」(手引 PDF p.167)

  • 使える……その業種で10年以上の実務経験を積むルート(法第7条第2号ロ)
  • 使えない……指定学科の卒業で年数を短縮したルート(法第7条第2号イ=高校等+5年/大学等+3年)

指定学科の卒業証明書で年数を縮めた方は、この緩和を重ねて使うことはできない、ということです。「学歴で3年に縮めたうえに、他業種の経験も振り替える」という二重取りは想定されていません。なお、この緩和の対象となった者の営業所技術者等の有資格区分コードは「99」になるとされています(手引 PDF p.167)。申請書の記載にも影響する扱いだ、という点は覚えておいてください。

4-2. 振替えが認められる業種の組み合わせ

対象は明示列挙です。ここに載っていない組み合わせでは使えません。

① 一式工事から専門工事への振替え(矢印の方向にのみ可)

振替え元振替え先
土木一式とび・土工 / しゅんせつ / 水道施設 / 解体
建築一式大工 / 屋根 / 内装仕上 / ガラス / 防水 / 熱絶縁 / 解体

手引は「矢印の方向にのみ振り替え可となります。右側の業種間での振替えはできません」と注記しています(手引 PDF p.167)。一式工事の経験を専門工事に振り替えることはできても、その逆はできず、また右側どうし(例:とび・土工としゅんせつ)の間で振り替えることもできません。

② 専門工事間での振替え(両方向に可)

組み合わせ方向
大工 ←→ 内装仕上両方向
とび・土工 ←→ 解体両方向

こちらは「両方向に向かって振替え可」とされています(手引 PDF p.167)。専門工事間で認められているのは、この2組だけです。塗装と防水、電気と管、といった「近そうに見える」組み合わせは対象外で、原則どおりそれぞれ10年ずつが必要になります。一式工事と専門工事の関係そのものは一式工事と専門工事の違いに、29業種の全体像は建設業許可の業種一覧に整理しています。

4-3. 必要な年数——「12年以上」かつ「それぞれ8年超」

年数の条件は2段構えです。

「営業所技術者等となろうとする業種での実務経験とその他の業種での実務経験を合わせて12年以上(営業所専任技術者となろうとする業種については、最低条件としてそれぞれ8年を超える実務経験が必要です。)有していれば、営業所技術者等となる資格を有することができます。」(手引 PDF p.167)

読み解くと、次のようになります。

条件内容
合計対象の2業種の実務経験を合わせて12年以上
各業種の下限営業所技術者になろうとする業種については、それぞれ8年を超える実務経験

「8年を超える」という下限があるため、片方が極端に短い経歴では使えません。 例えば「大工15年・内装仕上2年」という経歴では、内装仕上側が8年の下限に届かないため、内装仕上の営業所技術者にはなれません。両方の業種でそれなりの厚みがあることが前提の制度だということです。

4-4. 短縮の効果——2業種で20年が最短16年に

手引は、短縮の効果を数字と図で示しています。

「『許可を受けようとする業種に関して10年以上の実務経験を有する者』として、2業種の営業所技術者等となろうとする場合、通常は20年間の実務経験が必要ですが、最短16年(4年の期間短縮)の実務経験で2業種の営業所技術者等となることが可能となります。」(手引 PDF p.167)

内訳も明示されています。

振替えのパターン短縮幅手引が示す例
一式工事 → 専門工事最大2年の期間短縮一式工事の経験10年+専門工事の経験8年(手引 PDF p.167 の図)
専門工事間最大4年の期間短縮大工の経験8年+内装仕上の経験8年(同上)

専門工事間(大工↔内装仕上/とび・土工↔解体)のほうが短縮幅が大きい、というのが結論です。手引の図では、大工8年+内装仕上8年=計16年で、両方の営業所技術者になれる形が示されています。

なお、手引の図は「大工8年+内装仕上8年」と表記していますが、本文(§4-3)は「それぞれ8年を超える」実務経験としています(いずれも手引 PDF p.167)。8年前後の経歴で検討する場合は、この境界の扱いを事前に確認してください。 本記事では、一次資料に両方の書きぶりがあるという事実をそのままお伝えし、どちらで運用されるかの当てはめは断定しません。

4-5. ★使う前に確認すべき2点

この緩和は強力ですが、適用の可否を自己判断で決めてはいけない理由が2つあります。

① 審査要領の「振替えはできない」との関係

§2-5 で見たとおり、審査要領は「一度ある業種について証明した実務経験の期間については、別の業種に振り替えることはできない」と定めています(審査要領 PDF p.24)。一方で手引は、限定された業種の組み合わせについて「振替え」を認めています(手引 PDF p.167)。書きぶりだけを見ると、どこまでが緩和の枠内で、どこからが禁止される振替えなのかが、一次資料の文面だけでは読み切れません。

したがって、この緩和を使う設計は、書類を作り始める前に個別に確認するのが安全です。本記事では、両方の定めがあるという事実をそのままお伝えするに留めます。当てはめの結論を断定できる材料が、公表資料の中にないためです。

② 「技術的な共通性」の当てはめは工事の中身で決まる

緩和が使える組み合わせに入っていても、振り替えようとする経験が、本当にその業種の工事だったかは別問題です。手引は業種の区分について、次のように案内しています。

「業種の区分については、無許可営業、技術者配置義務違反、一括下請負等の法令違反に直結するため、関係法令等に基づき適切に整理する必要があります。…業種の区分に疑義がある場合は、工事台帳、現場写真、施工体制台帳、施工体系図等工事内容や施工体制の詳細が分かる資料をお示しいただき、個別に監理課建設業班へ相談してください。」(手引 PDF p.162)

業種の区分に疑義があるときは、資料を持って個別に相談する——これが岡山県の案内です。実務経験の振替えを検討する場面は、まさに「この工事はどの業種か」が争点になる場面ですから、ここに正面から当たることになります。当事務所では、どの工事をどの業種に割り振るかの整理と、相談の場に持ち込む資料の設計からご一緒しています。

5. 混同を解く|指導監督的実務経験は様式第9号と期間が重複してよい

「実務経験は重複してもいいと聞いた」という情報の出どころは、ほぼこれです。指導監督的実務経験証明書(様式第10号)の話であって、§2 の業種方向の重複とはまったく別の論点です。

5-1. 一次資料の記述

手引と審査要領の両方に、同趣旨の定めがあります。

「なお、様式第9号(実務経験証明書)に記載した期間と重複しても構いません。」(手引 PDF p.85)

「なお、実務経験証明書(様式第9号)と指導監督的実務経験証明書の証明期間が重複しても差し支えない。」(審査要領 PDF p.25)

つまり、「営業所技術者になるための10年」と「特定建設業のための指導監督的実務経験2年」は、同じ期間の中にあってよいということです。10年の実務経験を証明したうえで、そのうちの2年分について元請工事の指導監督的な経験を別途証明する——という組み立てが認められます。

5-2. しかし「別の書類・別の要件」である

重複が認められるからといって、書類が1つで済むわけではありません。2つの証明書は、目的も要件も期間の計算方法も違います。

比較項目実務経験証明書(様式第9号)指導監督的実務経験証明書(様式第10号)
何のための書類か営業所技術者等の要件(実務経験ルート)指定建設業以外の業種で特定建設業の許可を取る場合の特定営業所技術者の要件
使える場面一般・特定を問わず、実務経験で技術者になる場合指定建設業(土・建・電・管・鋼・舗・園)では使えない。1級相当の国家資格者・大臣認定者以外の者を特定営業所技術者として申請する場合(手引 PDF p.85)
対象になる工事その業種の建設工事。元請・下請の別や請負代金の額による限定は置かれていない(手引 PDF p.82・p.83)発注者から直接請け負った(元請)建設工事のみ。請負代金4,500万円以上(税込。平成6年12月28日前は3,000万円以上、昭和59年10月1日前は1,500万円以上)(手引 PDF p.84・p.85)
必要な期間原則10年(学歴・資格で短縮あり)2年(24か月)(審査要領 PDF p.25)
期間の計算方法記載した工期と次の工期の間の空白が3か月以内なら継続、4か月以上なら控除(手引 PDF p.83)各工事の施工期間から1か月を差し引いた月数を足し上げる。施工期間の合計が24か月以上になるよう工事を列挙する(手引 PDF p.85/審査要領 PDF p.25)
期間の重複業種間の重複は不可(審査要領 PDF p.24)様式第9号との重複は可。ただし指導監督的実務経験どうしの施工期間の重複は不可(審査要領 PDF p.25)

「重複してよい」と「重複してはいけない」が、1つの制度の中に同居しているのがこの論点の難しさです。整理すると次のようになります。

  • 様式第9号 × 様式第9号(業種違い)……重複不可(§2)
  • 様式第9号 × 様式第10号……重複可(§5-1)
  • 様式第10号 × 様式第10号(工事どうし)……施工期間の重複不可(審査要領 PDF p.25)

5-3. ★もう1つの混同——4,500万円は「特定建設業のライン」ではない

実務でとりわけ危ないのがこれです。手引 PDF p.84・p.85 に出てくる「4,500万円以上」は、指導監督的実務経験として計上できる工事の規模の話であって、特定建設業の許可が必要になる下請発注のラインではありません。

特定建設業が必要になるのは、元請として下請に出す金額が一定額以上になる場合であり、これは別の数字・別の条文です。この2つを取り違えると、「うちは特定が要る/要らない」の判断そのものが狂います。元請に回るときに何が変わるかは下請から元請になるための建設業許可に整理していますので、そちらをご確認ください。本記事では、4,500万円は様式第10号の話であるという線引きだけを明示しておきます。

5-4. 発注者側の経験は指導監督的実務経験にならない

もう1点、審査要領が明記している注意点です。

「発注者から最初の元請負人として請け負った工事に関する経験のみ対象となるものであり、発注者の側における経験等、営業所技術者等の実務経験として認められる期間であっても、指導監督的実務経験としては認められない。」(審査要領 PDF p.25)

営業所技術者の実務経験としてはカウントできる経験が、指導監督的実務経験としてはカウントできない——という非対称があります。官公庁や事業会社の発注側で工事監督をしていた経歴を持つ方は、ここで期待が外れることがあります。「10年は足りているのに、2年が作れない」という詰まり方です。

6. 時間方向の通算ルール|空白期間と、過去の報告との整合

§1 の表でいうAの話です。業種方向(§2)とは別に、時間方向でも期間は削られます。 2業種を狙うということは、この削られ方を2回受けるということでもあるため、本章で簡単に触れておきます。

6-1. 空白が4か月以上あると、その期間は落ちる

記載した工事の工期と次の工期の間に空白があるとき、3か月以内なら実務経験は継続しているとみなされ、4か月以上ならその期間は控除されます(手引 PDF p.83・審査要領 PDF p.24)。逐語の定めと、記載例での計算の当てはめ方、記載の密度(工事を並べる間隔)、空白の見つけ方は実務経験の証明書類が揃わないときに一本化してありますので、そちらをご覧ください。

6-2. ★2業種を狙うと、この負荷が2倍になる

ここが本記事の固有の論点です。業種方向の重複が認められない以上、2業種を実務経験で満たすには、2本の独立した期間が必要になります。そして、その2本それぞれについて、四半期に1件程度の間隔で工事が並び、4か月以上の空白がない状態を作らなければなりません(審査要領 PDF p.24)。

1業種の場合2業種の場合
必要な期間10年合計20年(§4 の緩和が使えれば最短16年)
実務経験証明書1通〜(証明者ごとに増える)2通〜(各業種×証明者の数)
並べる工事の目安四半期に1件程度×10年四半期に1件程度×20年分
県民局調査で確認される契約書等1業種分2業種分

「同じ期間を使えないこと」の実質的な重さは、年数よりもこの立証の量にあります。 20年分の工事を四半期ごとに並べ、そのすべてについて契約書の原本又は注文書の原本及び請書の写し等を提示できる状態にする——これが2業種同時申請の現実的なハードルです。

6-3. 過去の報告との整合が効いてくる

§2-6 で触れた「同じ工事を違う業種で記載できない」(手引 PDF p.81)は、2業種を狙うときにこそ効きます。加えて審査要領は、営業所技術者等について実務経験証明書を添付した申請では、証明書に載せた工事がその年度の工事経歴書にも記載されていることを求めています(審査要領 PDF p.8)。

実務経験証明書に書いた工事は、その年度の工事経歴書に載っていなければならない——つまり、毎年の事業年度終了報告(決算変更届)の内容と突き合わせられるということです。既に許可を持っている会社が業種を追加する場面では、過去に提出した工事経歴書がそのまま検証材料になります。

このため、業種追加を見据えている会社ほど、毎年の事業年度終了報告の段階で、工事の業種の割り振りを正確にしておく価値があります。「後で使うかもしれない工事」を、その場の都合で別業種に寄せてしまうと、数年後の業種追加で自分の首を絞めることになります。

7. 2業種以上を狙うときの設計|5つの選択肢と、費用・期間の逆算

ここまでの制約を踏まえて、実際にどう組むかです。相談の場でお示しする選択肢は、おおむね次の5つに整理できます。

7-1. 選択肢の比較

選択肢中身成立条件つまずきやすい点
A. 1人が2業種を実務経験で満たす(原則形)業種ごとに10年、合計20年分の期間を別々に証明する各業種で10年分の工事と裏付け書類が揃う立証量が2倍。証明者が複数に分かれると通数がさらに増える
B. 実務経験要件の緩和(振替え)を使う技術的な共通性がある業種間で振り替え、合計12年以上・各8年超で2業種①対象の組み合わせ(§4-2)②10年ルート(法第7条第2号ロ)であること③各業種8年超対象が狭い。学歴で短縮したルートでは使えない。適用の可否は事前確認が必要
C. 片方を資格ルートにする一方の業種を国家資格等で満たし、他方だけ実務経験で組む業種に対応する資格を持っている/取得できる資格取得後に一定期間の実務経験が必要な資格がある(手引 PDF p.164 注)
D. 技術者を2人置く業種ごとに別の営業所技術者を配置する常勤で置ける人がいる(採用・既存社員の資格取得)常勤性の確認が別途必要。人件費が継続的に発生する
E. 今回は1業種に絞り、業種追加は後日立証が固まっている業種で先に許可を取り、体制を整えてから追加する目先の受注で必要な業種が1つに絞れる後から同じ期間は使えない(審査要領 PDF p.24)。追加業種には別の期間が要る

判断の順序としては、C →(該当すれば)B → A → D → E で検討するのが、費用と時間の面で合理的です。Cは書類が一気に軽くなり、Bは使えれば年数が4年縮みます。Aは正攻法ですが立証量が最も重く、Dは継続的な人件費を伴います。Eは安全ですが、「後で足せばいい」が制度上そのままには通らない点に注意が必要です。

営業所技術者を確保する打ち手そのもの(採用・資格取得・実務経験ルートの再点検)は営業所技術者がいないと建設業許可は取れない?確保の方法に、これから建設業に参入する場合の組み立ては異業種から建設業に参入して許可を取るにはに整理しています。

7-2. 費用の考え方——★法定手数料は業種数で変わらない

費用面には、この論点特有の非対称があります。

項目金額業種数との関係
法定手数料(新規・許可換え含む/般特新規)90,000円申請する業種の数とは関係しません(手引 PDF p.14)
法定手数料(更新・追加)50,000円同上
変更届出書の提出手数料は不要——(手引 PDF p.14)

同時に複数の申請を行う場合は、それぞれの額の合計額になります。手引は「一般許可更新5万円+一般許可追加5万円=10万円」「一般許可追加5万円+特定許可新規9万円=14万円」といった例を挙げています(手引 PDF p.14)。

つまり、2業種を同時に新規申請しても、法定手数料は90,000円のままです。 一方で、実務経験の立証にかかる手間は業種数に比例して増えます(§6-2)。ここが判断材料になります。

  • 同時に取るほうが法定手数料の面では有利——後から業種追加すると、追加分の50,000円が別途かかります
  • ただし、書類が揃わないまま同時申請に踏み切ると、両方が止まる——1業種なら通ったはずの申請が、もう1業種の立証不足で遅れることがあります

当事務所の報酬(税込・目安)は、建設業許可申請(法人・新規)132,000円、(個人・新規)110,000円、業種追加55,000円です。実務経験で営業所技術者を証明する場合は、期間に応じた加算(3年44,000円/5年55,000円/10年77,000円)があります。2業種を実務経験で組む場合は、証明書の作成が業種ごとに必要になるため、この加算の考え方が判断のポイントになります。 金額は案件内容により変動しますので、正確な金額は事前にお見積りします。費用の全体像は建設業許可の費用はいくら?岡山県知事許可の総額目安に、業種追加にかかる費用は建設業許可の業種追加にかかる費用に整理しています。

7-3. 期間の逆算——動かせない部分と、読みにくい部分

期間は2つに分けて考えます。

動かせない部分(手引に書かれている)

  • 申請が受け付けられてから許可までは、特に問題がないケースで概ね2か月程度(手引 PDF p.16)
  • 申請受付後、半月程度で所轄の県民局から営業所調査実施の連絡(手引 PDF p.17)
  • 営業所調査が早く終わっても、本庁の調査は別途進行するため、許可が早くなるわけではありません(手引 PDF p.16)

読みにくい部分(事案による)

  • 20年分(緩和が使えれば16年分)の工事を四半期ごとに洗い出す作業
  • 証明者が複数にまたがる場合の、相手方への依頼と回収
  • 業種の区分に疑義がある場合の、監理課建設業班への個別相談(手引 PDF p.162)

「概ね2か月」は、書類が完全に整った状態で受け付けられてからの話です。2業種を実務経験で狙う案件では、その手前の工程のほうが長くなるのが通例で、しかも事案による幅が大きい部分です。ここに具体的な日数の目安を置くことは避けます。元請から期限を切られている場合は、逆算して早めに着手してください。 許可取得のタイミングをどう判断するかは建設業許可を取るタイミング|取得を判断する目安に整理しています。

7-4. 着手前チェックリスト|2業種を狙うと決める前に潰す6点

書類を集め始めてから「その組み方はできない」と分かるのが、この論点で最も時間を失うパターンです。方針を決める前に、次の6点を順に確認してください。いずれも一次資料に根拠のある確認項目です。

① 資格でカバーできる業種はないか(最優先)

1名が複数業種を担当すること自体は認められています(手引 PDF p.79)。片方でも資格で満たせるなら、重複の問題はそもそも起きません。 資格取得後に一定期間の実務経験が必要な資格もあるため(手引 PDF p.164 注)、合格年度とあわせて確認します。

② 狙う2業種は、緩和(振替え)の対象組み合わせに入っているか

対象は明示列挙です(手引 PDF p.167)。一式→専門は矢印の方向のみ、専門工事間は大工↔内装仕上・とび・土工↔解体の2組だけです。ここに入っていなければ、原則どおり各10年で組むしかありません。

③ 緩和を使うなら、10年ルート(法第7条第2号ロ)か

学歴で年数を短縮したルート(同条第2号イ)では使えません(手引 PDF p.167)。卒業証明書で3年・5年に短縮する構成と、緩和を併用する設計は成り立ちません。

④ 各業種で「8年を超える」経験があるか

緩和には、合計12年以上に加えて業種ごとに8年超という下限があります(手引 PDF p.167)。片方が薄い経歴では使えないため、先にこの下限で足切りをすると検討が早く進みます。

⑤ 過去の事業年度終了報告と矛盾しないか

同じ工事を、過去の報告と違う業種で記載することは認められません(手引 PDF p.81)。また、実務経験証明書に記載した工事は当該年度の工事経歴書に記載されている必要があります(審査要領 PDF p.8)。既に許可を持っている会社は、過去に出した工事経歴書を先に見返してください。

⑥ 「後から追加すればいい」で先送りしていないか

一度ある業種について証明した期間は、別の業種に振り替えられません(審査要領 PDF p.24)。先送り自体は選択肢(§7-1 のE)ですが、追加する業種にはその業種のための別の期間が要るという前提で工程を組む必要があります。

このチェックリストは、書類の収集に着手する前に当てるものです。順番が逆になると、集め終わってから方針を組み替えることになります。当事務所では、この方針決定の段階からご一緒しています。

8. 岡山県での手続き|提出先・営業所調査・法定手数料・処理期間

実務経験の設計が固まったら、次は手続きです。岡山県には、この論点と直結する運用がいくつかあります。

8-1. 提出先は本庁一元——県民局は受付窓口ではない

申請書・変更届の提出先は、岡山県土木部監理課建設業班(県庁6階)です。手引は「建設業許可申請及び変更届の受付については出先機関ではなく、本庁の土木部監理課建設業班で行っています」と明記しています(手引 PDF p.168)。所轄の県民局へ持ち込む窓口ではありません。 本記事は書面による申請を前提に整理しており、窓口へのご持参のほか、郵送での提出も受け付けられています(手引 PDF p.16)。

8-2. ★事前審査は一切行われない——設計は持ち込む前に決着させる

この論点にとって最も重い運用がこれです。

「事前審査は一切行いません。 正本と副本を必要部数作成し、日付の記入、納付済証の貼付等の遺漏がないことを確認し、書類を完全に整えた上で提出(送付)してください。」(手引 PDF p.16)

「とりあえず出してみて、重複がだめなら言ってもらう」という進め方はできません。 どの期間をどの業種に割り当てるか、緩和を使うのか使わないのか——これらはすべて、窓口に持ち込む前に決着させておく必要があります。 業種の区分に疑義がある場合に個別相談の道が用意されている(手引 PDF p.162)のは、この運用の裏返しでもあります。

8-3. 法定手数料の納め方

法定手数料は、岡山県手数料等(POS)納付連絡票を印刷し、収納専用窓口に持参して支払います。支払い後に納付済証を受け取り、許可申請書の正本非閲覧用の「(様式第1号の)別紙三」に貼り付けたうえで提出します(手引 PDF p.14)。複数の申請を組み合わせる場合は、納付連絡票を複数組み合わせて利用します。

8-4. 営業所調査で確認されるのは「業種ごと」の工事

申請受付後、半月程度で所轄の県民局から営業所調査実施の連絡があります(手引 PDF p.17)。実務経験で営業所技術者を立てている場合、ここで確認されるのは次のものです。

「② 実務経験の場合…様式第9号(実務経験証明書)に記入された工事の請負契約書(原本)又は注文書(原本)及び請書(写し)等(事案によっては、工事台帳、賃金台帳等でも確認します。)」(手引 PDF p.18)

2業種を実務経験で立てているなら、確認は2業種分です。片方の書類が揃っていても、もう片方が揃わなければ、その業種については立証ができないことになります。手引は、これらが揃わないときは実務を経験したことの証明ができないことになると明記しています(手引 PDF p.165)。

あわせて、営業所調査では営業所の所在確認(看板・机・電話及びファクシミリ・営業所の賃貸借契約書の原本等。営業所は居住部分と共用できません)と、常勤性の確認(法人の場合は健康保険証や被保険者標準報酬決定通知書等の原本、個人の場合は雇用保険関係書類等)も行われます(手引 PDF p.17-18)。

8-5. 処理期間

申請が受け付けられてから許可になるまでは、特に問題がないケースで概ね2か月程度です(手引 PDF p.16)。窓口受付時間は9:00〜11:30、13:00〜16:30(閉庁日を除く)で、11時30分から13時00分まで及び16時30分から翌開庁日の9時00分までの間は窓口を閉じるとともに審査を休止します。原則として、審査の途中であっても窓口閉鎖の時刻をもって審査は終了します(手引 PDF p.16)。新規・更新・追加・般特新規の申請は、時間的な余裕を持って臨む必要があります。

許可の要件全体(経営業務の管理責任者・営業所技術者・誠実性・財産的基礎・欠格要件・社会保険)は建設業許可の6つの要件(取れるか診断)から確認できます。実務経験の設計だけが整っても、他の要件が欠けていれば許可されません。 不許可・不受理につながる不備の類型は建設業許可が不許可・不受理になる主な理由に整理しています。

9. 許可のその先|業種追加・経審・毎年の維持管理

実務経験で複数業種を組んだ会社には、取得後に特有のリスクがあります。

9-1. 1人に2業種を背負わせる構造の弱さ

営業所技術者を欠く状態になった場合、代わりになる方がいなければ許可を失います(手引 PDF p.22)。手引は「欠く」状態について、退職・死亡はもちろん、毎日出勤することができなくなった場合も含み、病気や事故等で長期入院されるような場合には社会保険等の資格が継続されていても「欠く」状態とみなされると明記しています。変更届は変更後2週間以内の提出が必要です。

1人が2業種の営業所技術者を兼ねている会社では、その人が欠けると2業種が同時に危うくなります。 しかも、代わりの人を実務経験で立てようとすれば、また業種ごとに10年ずつが必要です。経験は遡って作れません。取得できた時点で、2人目の設計に着手する——これが、実務経験ルートで複数業種を組んだ会社の結論になります。

9-2. 毎年の事業年度終了報告が、次の業種追加の材料になる

§6-3 で見たとおり、実務経験証明書に記載する工事は、当該年度の工事経歴書に記載されている必要があります(審査要領 PDF p.8)。事業年度終了報告は決算日から4か月以内の提出が必要で、期限内の提出を怠っている場合には許可の更新・追加申請等はできません(手引 PDF p.22)。

つまり、毎年の報告を正確に積み上げておくことが、そのまま「次に業種を追加できる会社かどうか」を決めます。 逆に、業種の割り振りが雑なまま報告を重ねると、数年後の業種追加で使える工事が減ります。

9-3. 経審・入札を視野に入れるなら

公共工事の入札に参加するには、許可の取得に加えて経営事項審査(経審)の受審と、入札参加資格の申請が必要です。経審では技術職員名簿を作成しますが、審査要領は「経営事項審査様式『技術職員名簿』に当該営業所技術者等を記載する場合、許可で登録している資格と相違していても構わない」としています(審査要領 PDF p.22)。許可上の登録と経審上の記載は別物という整理ですので、実務経験で複数業種を組んだ会社ほど、両者を混同しないよう注意してください。経審の進め方は経審申請を岡山で依頼するなら、サービスの詳細は経営事項審査・入札参加資格をご覧ください。

変更届・事業年度終了報告・更新の期限をまとめて管理したい方には、顧問契約(月額5,500円(税込)〜の3プラン)をご用意しています。期限管理(いつ何を出すかのご案内)は顧問の範囲、申請の代理実行はスポットの報酬という切り分けです。

よくある質問(FAQ)

Q10年間、とび・土工も解体もやってきました。同じ10年で両方の営業所技術者になれますか?
A原則としてできません。岡山県の審査要領は「実務経験で2業種以上の営業所技術者等になる場合、それぞれの実務経験期間が重複することは認めていない」と定めており(審査要領 PDF p.24)、手引も「同一期間に複数の業種を並行して計上することはできません」と明記しています(手引 PDF p.165)。資格を持たない方が2業種を担当する場合は、業種ごとに10年間、合計20年間の経験を証明することになります(手引 PDF p.82)。ただし、とび・土工工事業と解体工事業については、平成28年5月31日までに解体工事の実務経験でとび・土工工事業の許可を取得している業者が同じく実務経験で解体工事業の許可を取る場合に限り、同一期間の実務経験を使える経過措置があります(重複を認める期間は平成28年6月1日の法施行前の経験期間のみ)。また、とび・土工と解体は実務経験要件の緩和の対象組み合わせでもあります(手引 PDF p.167)。どちらに当たるかは個別の経歴によりますので、ご相談ください。
Q「実務経験の振替え」ができると聞きました。どの業種の組み合わせで使えますか?
A手引の「営業所技術者等の実務経験要件の緩和」に、対象が明示列挙されています(手引 PDF p.167)。一式工事から専門工事への振替えは矢印の方向にのみ可能で、土木一式→とび・土工/しゅんせつ/水道施設/解体、建築一式→大工/屋根/内装仕上/ガラス/防水/熱絶縁/解体、の範囲です。専門工事間では、大工←→内装仕上、とび・土工←→解体の2組が両方向で可能です。年数は、対象の業種の実務経験を合わせて12年以上、かつ営業所技術者になろうとする業種についてはそれぞれ8年を超える実務経験が必要とされています。2業種で通常20年のところ、最短16年になります。ここに載っていない組み合わせでは使えず、原則どおり業種ごとに10年ずつが必要です。
Q高校の指定学科を卒業しているので実務経験は5年で足りるはずです。この場合も振替えは使えますか?
A使えません。手引は「建設業法第7条第2号ロ該当(10年以上の実務経験)について、実務経験要件が緩和されます。同条第2号イ該当(学歴+実務経験)の場合では認められません」と明記しています(手引 PDF p.167)。指定学科の卒業で年数を短縮したルートと、実務経験要件の緩和は重ねて使えない、という整理です。学歴で短縮できる場合はそれ自体が大きな利点ですので、どちらの構成が有利かは、証明できる期間と残っている書類を見たうえで判断することになります。
Q実務経験の期間は重複してもよいと聞いたことがあります。何と混同しているのでしょうか?
A指導監督的実務経験証明書(様式第10号)の話である可能性が高いです。手引は「様式第9号(実務経験証明書)に記載した期間と重複しても構いません」とし(手引 PDF p.85)、審査要領も「実務経験証明書(様式第9号)と指導監督的実務経験証明書の証明期間が重複しても差し支えない」としています(審査要領 PDF p.25)。これは、営業所技術者になるための実務経験と、指定建設業以外の業種で特定建設業の許可を取る場合に必要な指導監督的実務経験(元請として請負代金4,500万円以上の工事における2年以上の経験)とが、同じ期間の中にあってよいという意味です。業種をまたぐ実務経験の重複とは、まったく別のルールです。なお、指導監督的実務経験どうしについては、施工期間の重複は認められていません(審査要領 PDF p.25)。
Qまず1業種で許可を取り、後から同じ経験で業種を追加することはできますか?
Aできません。審査要領は「一度ある業種について証明した実務経験の期間については、別の業種に振り替えることはできない」と定めています(審査要領 PDF p.24)。同時申請でも後日の業種追加でも扱いは同じで、追加する業種にはその業種のための別の期間が必要です。また、実務経験証明書に記載した工事は当該年度の工事経歴書に記載されている必要があるため(審査要領 PDF p.8)、毎年の事業年度終了報告での業種の割り振りが、そのまま将来の業種追加の材料になります。将来の業種追加を見据えているなら、毎年の報告の段階から設計しておくことをおすすめします。

まとめ

「実務経験は業種をまたいで通算できるか」への答えを、もう一度整理します。

  • 原則はできません。 岡山県の審査要領は「実務経験で2業種以上の営業所技術者等になる場合、それぞれの実務経験期間が重複することは認めていない」と明記し(審査要領 PDF p.24)、手引も「同一期間に複数の業種を並行して計上することはできません」と書いています(手引 PDF p.165)。資格を持たない方が2業種を担当するなら、業種ごとに10年・合計20年分の証明が必要です(手引 PDF p.82)。
  • 後から振り替えることもできません。 「一度ある業種について証明した実務経験の期間については、別の業種に振り替えることはできない」とされており(審査要領 PDF p.24)、同じ工事を過去の報告と違う業種で書き直すこともできません(手引 PDF p.81)。
  • 例外①=解体工事業の経過措置。 平成28年5月31日までに解体工事の実務経験でとび・土工工事業の許可を取得している業者が、同じく実務経験で解体工事業の許可を取る場合に限り、同一期間を使えます。ただし重複を認める期間は法施行前の経験期間のみで、実務経験証明書は業種ごとに両方必要です(審査要領 PDF p.24)。
  • 例外②=実務経験要件の緩和。 技術的な共通性がある業種間(一式→専門は一方向、大工↔内装仕上・とび・土工↔解体は両方向)で振替えが認められ、合計12年以上・各業種8年超なら2業種の営業所技術者になれます。2業種で通常20年が最短16年になります。ただし対象は10年ルート(法第7条第2号ロ)に限られ、学歴で短縮したルートでは使えません(手引 PDF p.167)。
  • 混同注意=指導監督的実務経験。 様式第10号は様式第9号の期間と重複しても差し支えありません(手引 PDF p.85/審査要領 PDF p.25)。「重複してよい」という話の出どころはこちらで、業種方向の重複とは別の論点です。手引 p.84・p.85 の4,500万円も、特定建設業の下請発注のラインではありません。

そして、岡山県は事前審査を一切行いません(手引 PDF p.16)。どの期間をどの業種に割り当てるかは、窓口に持ち込む前に決着させておく必要があります。 業種の区分に疑義がある場合は、資料を持って個別に相談する道が用意されています(手引 PDF p.162)。

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