

下請専門でやってきた会社が「そろそろ自分で元請をやりたい」と考えたとき、最初に浮かぶのが「元請になるには、今の許可とは別の許可が要るのか」という問いです。
結論から言います。元請になること自体に、追加の許可は要りません。 一般建設業の許可であっても、自社の請負額に制限はありません(手引 PDF p.6)。1億円の工事を発注者から直接受けること自体は、一般建設業の許可で可能です。
変わるのは、「下請に出す額」のほうです。 一般建設業の許可では、1件の工事について下請に出す額の合計が5,000万円未満(建築一式工事は8,000万円未満)までしか出せません(手引 PDF p.6)。この水準以上を下請に出して施工するなら、特定建設業の許可が必要です(手引 PDF p.10)。
そして、その水準に達すると、許可の種類とは別の義務が3つ乗ってきます。監理技術者の別途配置(手引 PDF p.180)、施工体制台帳・施工体系図の作成(手引 PDF p.198)、そして元請にだけ課される工事現場への許可票の掲示(手引 PDF p.21・p.194)です。下請の立場では意識しなくてよかったものばかりです。
※ 元請として受注できる範囲、特定建設業への移行の要否、現場に置くべき技術者の人数は、工事の内容・下請への出し方・自社の技術者構成という個別の実態によって判断が分かれます。本記事は岡山県知事許可を前提とした一般的な整理であり、特定の会社・特定の工事について結論を保証するものではありません。最終判断は有資格者(行政書士)または岡山県の担当窓口にご確認ください。
なお、元請から「許可を取ってくれ」と言われた下請の側がどう動くかは、本記事の主題ではありません。そちらは元請から建設業許可を求められたら|下請が取る手順に整理していますので、まずそちらをご覧ください。本記事は逆方向——すでに下請として現場を回してきた会社が、発注者から直接請け負う側に移るとき、何がどう変わるか——だけを扱います。
1. 「元請になる」とは何が変わることか——許可の要否は立場では動かない
1-1. 元請の定義は「発注者から直接請け負う」こと
建設業法の世界で「元請」とは、発注者から直接請け負った建設業者を指します。手引は、工事経歴書の記載要領のなかで元請工事を「発注者から直接請け負つた建設工事をいう」と定義しています(手引 PDF p.48)。手引の許可の種類の説明でも、冒頭で「元請(発注者から直接請け負う)」と括弧書きしています(手引 PDF p.6)。
つまり、判定は契約の相手が誰かという一点です。ゼネコンから受ければ下請、施主・市町村・事業会社から直接受ければ元請。同じ会社が、案件ごとに元請にも下請にもなります。「元請会社になる」という会社の格の話ではなく、1件の契約ごとに決まる立場だということを、まず押さえてください。
1-2. 許可が必要になるラインは、元請でも下請でも同じ
ここが最初の誤解ポイントです。許可が必要になる金額ラインは、元請か下請かで変わりません。
手引は、許可がなくても請け負える「軽微な建設工事」を次のように定めています(手引 PDF p.5)。
- 建築一式工事:1件の請負金額が1,500万円に満たない工事、又は延べ面積150㎡に満たない木造住宅工事
- その他の工事:1件の請負金額が500万円に満たない工事
(金額はいずれも消費税及び地方消費税を含む額。注文者や元請業者が材料を支給する場合は材料費も含めて判断します。)
この判定は「工事一件の請負金額」で行われ、元請・下請の別は判定要素に入っていません。したがって、「下請のうちは許可が要らないが、元請になったら要る」という理解は誤りです。500万円のラインそのものの制度説明は500万円以上の工事を受注したい|建設業許可を取るまでのロードマップ【岡山】に、下請の立場から見た要否の判断は下請でも建設業許可は必要?立場から見た要否判断に整理していますので、要否そのもので迷っている段階の方はそちらへどうぞ。
1-3. では、元請になると本当に変わるのは何か
整理すると、元請に回ることで実際に変わるのは次の3層です。
| 層 | 下請のとき | 元請になると |
|---|---|---|
| 許可の要否 | 1件の請負代金で判定 | 同じ(立場では動かない) |
| 許可の種類 | 一般建設業で足りる(自社が下請に出す額次第) | 下請に出す総額が一定額以上になると特定建設業が必要(手引 PDF p.10) |
| 現場・契約の義務 | 主任技術者の配置(手引 PDF p.180) | 監理技術者の別途配置・施工体制台帳・施工体系図・再下請負通知の指導監督・工事現場への許可票掲示・一括下請負の禁止の元請側の責任 |
「許可」だけを見ていると、元請への転換は何も起きていないように見えます。実際に重くなるのは3行目です。 この記事の残りは、ほぼ3行目の話です。
1-4. ★よくある誤解を先に3つ潰す
誤解①「元請をやるには特定建設業の許可が要る」
違います。特定建設業が必要になるのは、発注者から直接請け負った工事について、下請代金の額(下請契約が2以上あるときはその総額)が、建築工事業は8,000万円以上、その他の工事業は5,000万円以上となる下請契約を締結して施工する場合です(手引 PDF p.10)。下請を使わない、あるいは下請に出す額がこの水準に届かないのであれば、一般建設業の許可のまま元請ができます。
誤解②「一般建設業だと、元請として受けられる金額に上限がある」
違います。手引は明確に「自社の請負額に制限はない」と書いています(手引 PDF p.6)。制限がかかるのは下請に出す額です。自社施工の比率が高い会社ほど、一般建設業のままで大きな元請工事を回せます。
誤解③「元請になったら、自社の許可業種以外の工事も一括して受けられる」
これも違います。元請になっても、自社が請け負える建設工事の業種の範囲は許可業種のままです。総合的な企画・指導・調整のもとに土木工作物や建築物を建設する工事は一式工事(土木一式・建築一式)であり、専門工事とは別の許可業種です(手引 PDF p.5)。元請として一式工事を受けたいのに一式の許可がない、というのは典型的な詰まり方で、その場合は業種追加の検討になります(建設業許可の業種追加|手続きの流れ)。
2. 一般建設業のままでどこまで元請ができるか——線は「下請に出す総額」
2-1. 手引が定める線引き
手引は、許可の種類を次のように説明しています(手引 PDF p.6)。
「3 許可の種類・・・元請(発注者から直接請け負う)一件の工事について、下請に出す額の総額により必要な許可の種類が異なります。
・一般建設業の許可・・・・合計で 5,000 万円未満までしか下請に出すことができません(建築一式工事については 8,000 万円未満まで)。
※金額はいずれも消費税及び地方消費税を含む額。元請負人が提供する材料等の価格は含めない。なお、自社の請負額に制限はない。
・特定建設業の許可・・・・制限はありません。」
裏側から書いたのが特定建設業の要件です(手引 PDF p.10)。発注者から直接請け負う建設工事につき、下請代金の額(その工事に係る下請契約が2以上あるときは、その総額)が、建築工事業は8,000万円以上、その他の工事業は5,000万円以上となる下請契約を締結して施工する場合に、特定建設業の許可が必要になります。
2-2. 判定の実務——5つのチェックポイント
この判定は、実務では次の5点で間違えます。
- 判定は「1件の工事」単位。 年間の下請発注総額ではありません。1件の元請工事について、その工事の下請代金を合計します。
- 下請契約が2以上あるときは総額。 「1社あたり」ではありません(手引 PDF p.10)。4社に1,500万円ずつ出せば合計6,000万円で、その他の工事業なら特定建設業の水準に達します。
- 税込で判定する。 手引は「金額はいずれも消費税及び地方消費税を含む額」としています(手引 PDF p.6・p.11)。税抜の契約金額で線を引くと判定を誤ります。
- 元請負人が提供する材料等の価格は含めない(手引 PDF p.6・p.11)。支給材の分は下請代金に足しません。ここは、許可の要否を判定する軽微な建設工事の側(注文者や元請業者が材料を支給する場合は材料費も含めて判断する/手引 PDF p.5)と逆向きなので、混同しやすい箇所です。
- 建築一式工事だけ8,000万円。 その他の28業種は5,000万円です(手引 PDF p.10)。
判定の起点:直近1年で自社が元請として受けた(または受けようとしている)工事を金額の大きい順に並べ、その1件ごとに「下請に出した額の合計(税込・支給材を除く)」を書き出してください。5,000万円(建築一式は8,000万円)に届いている工事が1件でもあれば、特定建設業の検討に入ります。 届いていなければ、当面は一般建設業のままで元請を増やせます。
2-3. 一般建設業のまま「線を超えて下請に出した」らどうなるか
手引は、施工体制台帳の説明のなかで注記としてはっきり書いています。
「※ 一般建設業者では元請として上記金額以上の工事を下請に出すことは禁じられています」(手引 PDF p.198)
これは努力目標ではなく禁止です。岡山県の監督処分の基準にも、対応する項目が置かれています。「三 建設業者に対する監督処分の基準」の(7) 無許可業者等との下請契約には、建設業者が特定建設業者以外の建設業を営む者と、下請代金の額が建設業法第3条第1項第2号の政令で定める金額以上となる下請契約を締結したときは、当該建設業者および当該一般建設業者に対し7日以上の営業停止処分を行う、と定められています(手引 PDF p.206)。
つまり、線を超えた下請発注は、出した側にも受けた側にも影響が及び得る取扱いになっています。 「今回だけ」「工期が押しているから」という進め方が最も危険なのは、この構造のためです。監督処分の基準そのものは手引 PDF p.200〜208 にまとまっています。
2-4. ⛔最大の地雷:「4,500万円」を特定建設業のラインと取り違えない
建設業許可の資料を読み込むと、4,500万円という数字に複数回出会います。これは特定建設業が必要になるラインではありません。 ここを取り違えると、要らない許可を取りに行くか、逆に要る許可を取り損ねます。手引に出てくる主な金額を、役割ごとに並べます。
| 金額(税込) | 何の線か | 出典 |
|---|---|---|
| 500万円(建築一式は1,500万円/延べ150㎡未満の木造住宅) | 許可の要否(軽微な建設工事) | 手引 PDF p.5 |
| 5,000万円(建築一式は8,000万円) | 下請に出す総額の上限=一般建設業で出せる限界/この水準以上は特定建設業が必要 | 手引 PDF p.6・p.10 |
| 5,000万円(建築一式は8,000万円) | 監理技術者の別途配置が必要になる水準/施工体制台帳等の作成義務(民間工事) | 手引 PDF p.180・p.198 |
| 4,500万円(建築一式は9,000万円) | 公共性のある施設・工作物の工事で、主任技術者・監理技術者を現場ごとに専任にしなければならない水準 | 手引 PDF p.21・p.181 |
| 4,500万円以上の元請工事 | 指導監督的実務経験(様式第10号)として計上できる工事の要件。指定建設業以外の業種で、1級相当の資格者以外を特定営業所技術者にする場合に使う | 手引 PDF p.84・p.85 |
特に混同されやすいのが、下2行です。 4,500万円は「専任にしなければならない工事の規模」と「指導監督的実務経験として数えられる工事の規模」であって、特定建設業が必要になるラインではありません。特定建設業のラインは、あくまで下請に出す総額の5,000万円(建築一式8,000万円)です。
なお、指導監督的実務経験については、発注者から最初の元請負人として請け負った工事に関する経験のみが対象とされています(審査要領 PDF p.25)。これは§8-3で改めて触れますが、元請の実績は、将来特定建設業へ進むときの技術者要件の素地になるという意味で、下請専門の会社にはない資産になります。
3. 元請に乗る義務①|現場に置く技術者が変わる
3-1. 主任技術者の配置は、元請になる前から義務
まず前提の確認です。許可を受けた業種の工事には、元請か下請かにかかわらず、また請負金額の大小にかかわらず、技術者を配置する義務があります。もともと許可がなくても請け負える小規模の工事であっても、許可業種である以上は1件ごとに技術者を置かなければなりません(手引 PDF p.180)。この「立場では動かない」という構造は、§1-2 で紹介した下請側の要否判断の記事が詳しく扱っています。
主任技術者になるには、一般建設業の営業所技術者(旧:専任技術者)等になることができる資格及び経験が必要です(手引 PDF p.180)。ここは下請時代から変わりません。
3-2. 監理技術者——特定建設業者が元請として大きく下請させる場合
変わるのはここからです。特定建設業者が元請として一定額(税込5,000万円、建築一式工事については8,000万円)以上の工事を下請させる場合には、監理技術者を別途配置する必要があります(建設業法第26条第2項/手引 PDF p.180)。この場合、元請からは監理技術者を、下請もそれぞれ主任技術者を配置するという構造になります。
監理技術者になるには、特定建設業の営業所技術者等になることができる資格及び経験が必要です(手引 PDF p.180)。指定建設業(土・建・電・管・鋼・舗・園)については1級の国家資格者・技術士等または大臣認定者に限られ、それ以外の業種では、一般建設業の営業所技術者等の要件を満たす者で、4,500万円以上の元請工事について2年以上の指導監督的実務経験を有する者でも足ります(手引 PDF p.11)。
要するに、特定建設業へ移るということは「営業所に1級相当の技術者を置く」だけでは終わらず、「現場に監理技術者を出せる体制を作る」ことまで含みます。 特定建設業への移行を検討するときに、資格者の頭数の話が最初に来るのはこのためです。
3-3. 専任義務——4,500万円(建築一式9,000万円)以上の公共性のある工事
手引は、許可取得後の注意事項として次のように整理しています(手引 PDF p.21)。
- 税込4,500万円(建築一式工事については9,000万円)以上の公共性のある工作物の工事(個人住宅を除くほとんどの工事)については、着工から竣工までの間、主任技術者又は監理技術者はその工事現場ごとに専任でなければならない
- このような工事では、他の工事との掛け持ち等はできない
- 配置義務に違反すると監督処分等を受ける
「公共性のある工事」の範囲は広く、国・地方公共団体発注のものだけでなく、鉄道・道路・上下水道、電気事業用施設、ガス事業用施設、学校・図書館・寺院・工場・病院・デパート・事務所・ホテル・共同住宅などが挙げられています(手引 PDF p.181)。民間工事でも該当します。
ただし例外もあります。監理技術者に関し、これを補佐する者(1級技士補等)を置いたときなど、技術者が2現場まで兼務できる場合があります(手引 PDF p.181)。手引はまた、事業年度終了報告の際に「大きな工事と掛け持ちしていることが分かる例が散見される」と注意を促しています(手引 PDF p.181)。元請として大きな工事を取ると、この掛け持ちが決算報告の場で可視化されるという点は、下請時代にはなかったリスクです。
3-4. ★元請転換で最も詰まるのはここ——営業所技術者を現場に出せない
技術者が実質1人という会社が元請に回ろうとしたとき、必ず突き当たるのがこれです。
営業所技術者等は「営業所に常勤して専らその職務に従事することを要する者」とされており、工事現場に配置することは原則としてできません(手引 PDF p.181)。手引は「これは主任技術者及び監理技術者としては無論のこと、一般作業員としても同じです」と明記しています。
例外的に現場へ配置できるのは、次の条件をすべて満たす場合に限られます(手引 PDF p.181)。
- 技術者の専任性が求められない工事であること
- 当該営業所において請負契約が締結された建設工事であること
- 工事現場の職務に従事しながら実質的に営業所の職務にも従事しうる程度に、工事現場と営業所が近接していること
- 当該営業所との間で常時連絡をとりうる体制にあること
- 直接かつ恒常的な雇用関係にあること
つまり、専任が必要な規模の元請工事を取った瞬間、営業所技術者はその現場に出せません。 別に技術者を用意する必要があります。元請へ回るときの人員計画は、次の順で組み立ててください。
| 想定する元請工事 | 現場に必要な技術者 | 営業所技術者との関係 |
|---|---|---|
| 専任不要の規模(公共性のある工事で4,500万円未満/建築一式9,000万円未満) | 主任技術者1名 | 上記5条件を満たせば営業所技術者が兼ねられる場合がある |
| 専任が必要な規模(公共性のある工事で4,500万円以上/建築一式9,000万円以上) | 専任の主任技術者または監理技術者1名(現場ごと) | 営業所技術者は出せない。別の技術者が必要 |
| 下請に5,000万円以上(建築一式8,000万円以上)出す工事 | 監理技術者(特定建設業の技術者要件を満たす者) | 営業所にも1級相当の特定営業所技術者が別途必要 |
| 上の2つが重なる工事 | 専任の監理技術者(1級技士補等の補佐者がいれば2現場まで兼務できる場合がある) | 同上 |
営業所技術者そのものが確保できていない段階の会社は、まず営業所技術者(旧:専任技術者)がいないときの選択肢をご覧ください。技術者が1人しかいない会社が元請に回るのは、許可の問題ではなく人員の問題として詰まります。ここを見誤ると、受注してから配置できないことに気づくという最悪の順序になります。
なお、営業所を増やして受注地域を広げる場合は、営業所ごとに営業所技術者が必要になるうえ、従たる営業所の代表者(令3条の使用人)という別の登場人物が出てきます。詳しくは令3条の使用人とは|複数営業所の建設業許可要件へ。
4. 元請に乗る義務②|施工体制台帳・施工体系図・再下請負通知
4-1. なぜ元請だけに課されるのか
手引は制度の趣旨をこう説明しています(手引 PDF p.198)。工事の規模が大きくなるにつれて下請・孫請等の複雑な分業体制になるため、元請業者が工事現場ごとに施工に携わる業者の状況、それぞれの施工業者における技術者の配置状況等、施工体制を的確に把握しておく必要がある。そして、これらの規定に違反した場合には、建設業法による監督処分の対象となります。
4-2. 作成義務が生じる工事——民間と公共で線が違う
ここが実務上いちばん見落とされます(手引 PDF p.198)。
| 工事の別 | 施工体制台帳等の作成義務 |
|---|---|
| 民間工事 | 特定建設業者が元請となって5,000万円(建築一式工事については8,000万円)以上の工事を下請に出す場合 |
| 公共工事 | 工事を受注した建設業者が下請契約を締結する場合は、下請負額の大小によらず全ての工事で作成義務 |
公共工事は金額の下限がありません。 手引も「注意してください」と念を押しています。公共工事の元請に回るなら、下請に1円でも出した時点で施工体制台帳が必要という前提で体制を組む必要があります。公共工事・入札参加そのものについては公共工事に入りたい|建設業許可が入札参加への第一歩に整理しています。
4-3. 元請が実際に何をするのか
手引が挙げる元請側の作業は次のとおりです(手引 PDF p.198-199)。
- 施工体制台帳の作成・備置き:自社および下請業者等、施工に関わる全ての業者の名称、それぞれの工事の具体的内容・工期・配置技術者等を記載し、工事現場ごとに備え置く(建設業法第24条の8第1項)
- 公共工事では発注者への写しの提出(公共工事入札・契約適正化法第13条第1項)
- 監理技術者補佐を置く場合は、その者の氏名・資格を記載し、資格を証する書類と恒常的な雇用関係を記載した書類を添付(令和2年10月1日の法改正で追加)
- 作業員名簿を施工体制台帳の一部として作成(同改正で追加)
- 再下請負通知の義務があることを下請業者に通知し、工事現場の見やすいところに元請業者の名称および再下請負通知書の提出先を掲示する
- 施工に携わる全ての建設業者を指導監督する義務
- 施工体系図を作成し、工事現場の見やすいところに掲示(建設業法第24条の8第4項)
掲示については、令和4年3月から書面に限らずICT機器等を活用して画面上に表示することが可能になり、施工体系図もデジタルサイネージ等ICT機器を活用した掲示が可能とされています(建設業法施行規則第14条の2第3項・第4項/手引 PDF p.199)。
4-4. 下請の側から見ると、義務も増える
元請に回ると、自社が出した下請から再下請負通知書を受け取る立場になります。逆に、下請業者は、自らが請け負った工事の一部をさらに再下請した場合、その再下請工事の具体的内容・工期・配置技術者等を元請業者に書面で通知しなければなりません(建設業法第24条の8第2項/手引 PDF p.199)。
下請時代に「元請から出せと言われて出していた書類」を、今度は自分が集めて束ねる側になるということです。事務量としては、ここが元請転換で最も増える部分です。書類作成・様式の整備を誰が担うのかを、受注前に決めておいてください。
5. 元請に乗る義務③|許可票の掲示と、一括下請負(丸投げ)の禁止
5-1. 工事現場の許可票は「元請工事のみ」
手引は、許可取得後の注意事項の筆頭に標識の掲示義務を置いています。
「建設業の許可を受けたときは、店舗及び建設工事の現場(元請工事のみ)ごとに、標識を作成し、公衆の見やすい場所に掲示しておかなければなりません。」(手引 PDF p.21)
より具体的には、工事現場への掲示は、発注者から当該建設工事を直接請け負ったものに限り必要とされています(建設業法第40条/手引 PDF p.194)。「公衆の見やすい場所」とは、事務所内への掲出ではなく、事務所が面する道路等、第三者の視点からでも許可票の記載内容が容易に確認できる必要があると解されています(手引 PDF p.194)。
つまり、下請のときは店舗(営業所)にだけ掲げていればよかった許可票を、元請工事では現場ごとに掲げることになります。 様式は手引に掲載されており(手引 PDF p.196-197)、表示事項とサイズは規定されていますが、材質等に特段の規定はなく、降雨等で判読できなくならないように各自で作成します(手引 PDF p.194・p.21)。県から交付されるものではありません。 ICT機器を活用した掲示も、一定の要件(公衆が必要な時に確認できる/確認できる旨が常時分かりやすく表示されている/施工時間外も表示できる)を満たせば可能です(手引 PDF p.195)。
そして、意外に事故が多いのが有効期間まわりです。 手引は「許可業者であっても、許可の有効期間が満了した後や、廃業の届出を行った後には、従前から掲示していた許可票の掲示をやめたり、記載事項を速やかに修正しなければならない」と注意しています(手引 PDF p.195)。許可番号のカッコ内は一般なら「般」、特定なら「特」、ハイフンの後は許可を受けた年度で、更新のたびに切り替わるため、この数字が5年以上前の数字になることはありません(手引 PDF p.194)。現場に古い許可票が出ていれば、それだけで更新漏れが露見します。
5-2. ⛔一般建設業なのに「特定」と読めるように表示しない
建設業法第40条の2は、許可を受けていない者が、許可を受けていると誤認されるおそれのある表示をすることを禁じています。手引は禁止例を3つ挙げています(手引 PDF p.194)。
- 建設業の許可を全く受けていない者が、一般建設業又は特定建設業の許可を受けているように表示すること
- 一般建設業の許可のみを受けている者が、特定建設業の許可を受けているように表示すること
- 一般又は特定建設業の許可を受けている者が、その許可建設業以外の業種の建設業について許可を受けているように表示すること
元請に回るタイミングは、看板・名刺・ホームページ・会社案内を作り替える時期と重なります。 「元請対応」「大型工事対応」といった表現自体が禁止されるわけではありませんが、2号は一般建設業の会社が最も踏みやすい線です。許可番号や許可業種の表示は、実際の許可の内容と一字一句そろえてください。
5-3. 一括下請負(丸投げ)の禁止——元請になって初めて自分の問題になる
手引は、許可取得後の注意事項として次のように書いています(手引 PDF p.21)。
「いかなる方法をもってするかを問わず、建設業者が受注した建設工事を一括して他人に請け負わせること及び建設業を営む者が他の建設業者が請け負った建設工事を一括して請け負うことは禁止されています。契約を分割したり、あるいは他人の名義を用いるといったことが行われていても、その実態が一括下請負に該当するものは一切禁止となっています。」
一括下請負に該当するのは、①請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合、②請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず一括して他の業者に請け負わせる場合、です(手引 PDF p.185-186)。
これを免れるのが「実質的な関与」です。手引は、注文者から直接建設工事を請け負った建設業者(=元請)について、次の6項目を全て行うことが必要としています(手引 PDF p.186)。
| 区分 | 元請(発注者から直接請け負った建設業者)がやること |
|---|---|
| 施工計画の作成 | 請け負った建設工事全体の施工計画等の作成、下請負人の作成した施工要領書等の確認、設計変更等に応じた施工計画書等の修正 |
| 工程管理 | 請け負った建設工事全体の進捗管理、下請負人間の工程調整 |
| 品質管理 | 請け負った建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認、必要に応じた立会確認 |
| 安全管理 | 安全確保のための協議組織の設置及び運営、作業場所の巡視等、請け負った建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置 |
| 技術的指導 | 請け負った建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認、現場作業にかかる実地の総括的技術指導 |
| その他 | 発注者等との協議・調整、下請負人からの協議事項への判断・対応、請け負った建設工事全体のコスト管理、近隣住民への説明 |
下請のときに求められていたのは「請け負った範囲について主として行う」ことでした(手引 PDF p.186)。元請になると、対象が「工事全体」に変わり、しかも「全て行う」ことが求められます。 協議組織の設置・運営、下請間の工程調整、近隣説明——このあたりは、下請専門の会社の業務にはそもそも存在しなかった仕事です。
5-4. ★下請時代の感覚が最も危険になる4つの場面
手引のQ&A(手引 PDF p.188-191)から、元請転換で誤りやすいものを抜き出します。
- 利益を取っていなくても一括下請負になる。 500万円で請け負った工事を、経費も差し引かず同額で1社に全部下請けさせた場合でも、中間搾取の有無は判断において考慮されず、一括下請負に該当します(Q1/手引 PDF p.188-189)。
- 現場に技術者を置いているだけでは「実質的に関与」にならない。 主たる部分を1社に下請させ、一応現場に自社の技術者を置いていた事例について、手引は「単に現場に技術者を置いているというだけでは実質的に関与しているとはいえない」としています(Q2/手引 PDF p.189)。さらに、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する的確な技術者が置かれない場合も、実質的に関与しているとはいえません(手引 PDF p.187)。
- 資材を提供しただけでも足りない。 建設工事の全部を1社に下請負させ、資材を元請として提供していた事例について、「適正な品質の資材を調達することは品質管理の一つではあるが、これだけを行っても実質的に関与しているとはいえない」とされています(Q4/手引 PDF p.189)。
- 子会社への丸投げも一括下請負。 連結関係の子会社であっても、実際の建設工事を一括して行わせた場合は別々の会社である以上、一括下請負に当たります。手引は「親会社が自ら実質的な業務を行わない場合には、親会社を介さず直接子会社に請け負わせることが適当」としています(Q9/手引 PDF p.190)。
例外は、共同住宅を新築する建設工事以外の民間工事について、元請負人があらかじめ発注者から書面による承諾を得ている場合に限られます(手引 PDF p.188)。承諾は一括下請負に付する以前に書面で、建設工事の最初の注文者である発注者から受ける必要があります。共同住宅を新築する建設工事は、全ての下請契約について一括下請負が禁止されており、事前に発注者の書面による承諾を得ても認められません(建設業法施行令第6条の3/手引 PDF p.191)。なお、承諾を得て一括下請負に付した場合でも、元請負人は工事現場に主任技術者又は監理技術者を配置する必要があります(手引 PDF p.188)。
監督処分の基準では、建設業法第22条(一括下請負の禁止)の規定に違反したときは15日以上の営業停止処分を行うこととされています(手引 PDF p.206)。また、一括下請負を行った建設業者は、当該工事を実質的に行っていると認められないため、経営事項審査における完成工事高に当該建設工事に係る金額を含むことは認められません(手引 PDF p.188)。丸投げは、処分だけでなく経審の点数にも跳ね返るということです。
5-5. 元請になると「下請の許可を確認する責任」が生じる
もう1つ、下請の立場では意識しなかった論点です。監督処分の基準の(7) 無許可業者等との下請契約は、次の3つを定めています(手引 PDF p.206)。
- 建設業者が、建設業法第3条第1項の規定に違反して許可を受けないで建設業を営む者と下請契約を締結したときは、7日以上の営業停止処分(酌量すべき情状があるときは減軽)
- 建設業者が、特定建設業者以外の者と、政令で定める金額以上となる下請契約を締結したときは、当該建設業者および当該一般建設業者に対し7日以上の営業停止処分
- 建設業者が、情を知って、営業停止処分を受けた者等と下請契約を締結したときは、7日以上の営業停止処分
元請になるということは、自社の下請の許可状況を確認する立場になるということです。 許可が必要な規模の工事を無許可の業者に出していないか、下請の許可業種は工事内容と合っているか——ここは、下請時代には元請がやってくれていた確認です。無許可で受注してしまった側の対処は無許可で500万円以上を受注してしまったらに、許可が不要な範囲は軽微な工事(500万円未満)とはに整理しています。
6. 元請へ移る前に確認する順序——6ステップの逆算
ここまでの内容を、着手できる順序に並べ直します。順序を守ることに意味があります。 逆から進めると、要らない許可を取りに行くか、受注してから配置できないことに気づくかのどちらかになります。
6-1. Step 1|「下請に出す総額」を1件ずつ出す(§2-2 の作業)
まずここです。元請工事1件ごとに、下請に出す額の合計(税込・元請提供材料を除く)を出します。5,000万円(建築一式8,000万円)に届いていなければ、一般建設業のまま元請ができます。届く見込みの案件があるかどうかで、この先の分岐が決まります(手引 PDF p.6・p.10)。
このステップだけは、許可の話をする前に必ず済ませてください。 ここを飛ばして「元請をやるなら特定を」と決めてしまうと、後述する財務要件のために不要な資本政策を検討することになります。
6-2. Step 2|業種の範囲を確認する
元請として受ける工事が、自社の許可業種の範囲に収まっているかを確認します。一式工事と専門工事の区別(手引 PDF p.5)、個別の工事がどの業種に分類されるか(業種区分表=手引 PDF p.158以下)を当てます。足りなければ業種追加の検討で、これは特定建設業への移行とは別の手続きです(建設業許可の業種追加|手続きの流れ)。
6-3. Step 3|技術者の頭数を数える(§3-4 の表)
元請工事の規模に応じて、現場に何人の技術者が必要になるかを数えます。 専任が必要な規模なら営業所技術者は出せません(手引 PDF p.181)。ここで人が足りないなら、受注の前に採用・資格取得・配置計画のどれかを動かすことになります。人の話はいちばん時間がかかるので、Step 3 は早く着手するほど有利です。
6-4. Step 4|下請の許可状況を棚卸しする(§5-5)
元請になると、自社の下請の許可の有無・業種・区分(一般/特定)を確認する責任が生じます。 恒常的に使っている協力会社について、許可通知書の写しを集め、業種と有効期間を一覧にしておいてください。この一覧は、施工体制台帳の作成にもそのまま使えます(手引 PDF p.198)。
6-5. Step 5|特定建設業が要るなら、財務要件で足切りされないかを見る
Step 1 で線に届く見込みがあるなら、ここで初めて特定建設業の要件を見ます。特定建設業には、一般建設業の基準に加えて次の2つが必要です(手引 PDF p.11)。
| 加わる要件 | 内容(概要のみ) |
|---|---|
| 一級相当の特定営業所技術者 | 指定建設業(土・建・電・管・鋼・舗・園)は1級の国家資格者又は技術士等、1級相当と大臣が認定した者に限られる。指定建設業以外は、1級の国家資格者・技術士等のほか、一般建設業の営業所技術者等の要件を満たす者で4,500万円以上の元請工事について2年以上の指導監督的実務経験を有する者でも可 |
| より高度な財産的基礎 | 許可申請時直前の決算期(新規設立は創業時)の財務諸表で、①資本金2,000万円以上 ②自己資本4,000万円以上 ③欠損の額が資本金の20%を超えない ④流動比率75%以上の全てを満たすこと |
本記事では、この4つの当てはめには踏み込みません。 欠損の額・流動比率の計算式は手引 PDF p.12 に掲げられており、決算書の科目の取り方で結論が変わるため、実際の財務諸表を見ながら判断すべき領域だからです。①資本金についてのみ、直前決算時に基準に達していなくても、その後の増資により申請前に要件を満たしていれば差し支えありません(資本金の額の変更届の提出が必要/手引 PDF p.11)。
なお、一般建設業の財産的基礎(500万円)とは別物です。一般建設業の500万円で詰まっている段階の方は自己資本500万円が足りないとき|増資・借入・残高証明と建設業許可の財産的要件|500万円・残高証明の準備をご覧ください。
6-6. Step 6|申請の種類と時期を決める
一般建設業の許可しか受けていない者が新たに特定建設業の許可を受けようとする場合の申請は、般特新規許可申請です(手引 PDF p.13)。法定手数料は90,000円(新規・許可換え含む・般特新規/手引 PDF p.14)。業種の数とは関係なく同額で、複数の申請を同時に行う場合は合算されます(例:一般許可追加50,000円+特定許可新規90,000円=140,000円/手引 PDF p.14)。
時期の考え方は、受注のタイミングから逆算します。 申請が受け付けられてから許可までは、特に問題がないケースで概ね2か月程度(手引 PDF p.16)。この2か月は「書類が完全に整った状態で受け付けられてから」の期間であり、その手前の資料収集・決算の確定・技術者の確保はここに含まれません。取得時期の考え方そのものは建設業許可を取るタイミング|取得を判断する目安に整理しています。
6-7. ★逆算のまとめ
| Step | 何を見るか | 判断が変わるもの | かかる時間の性質 |
|---|---|---|---|
| 1 | 下請に出す総額(1件ごと・税込) | 一般のままか/特定へ移るか | 即日(数字を並べるだけ) |
| 2 | 許可業種の範囲 | 業種追加の要否 | 短い(工事内容の当てはめ) |
| 3 | 技術者の頭数と配置 | 受注できる規模の上限 | 最も長い(採用・資格取得) |
| 4 | 下請の許可状況 | 発注先の見直し | 中(協力会社への依頼) |
| 5 | 財務要件(特定の場合のみ) | 決算をまたぐか否か | 決算期に拘束される |
| 6 | 申請の種類・時期 | 受注可能時期 | 受付後 概ね2か月(手引 PDF p.16) |
Step 3 と Step 5 は、Step 1 の結果が出る前でも並行して情報収集を始められます。 逆に Step 6(申請)だけを急いでも、技術者と決算が追いつかなければ意味がありません。
7. 岡山県での手続き——般特新規の申請・提出先・営業所調査・費用と期間
7-1. 提出先は本庁一元——申請窓口は県民局ではありません
岡山県知事許可の申請書・変更届の提出先は、岡山県土木部監理課建設業班(県庁6階)です。手引は「建設業許可申請及び変更届の受付については出先機関ではなく、本庁の土木部監理課建設業班で行っています」と明記しています(手引 PDF p.168)。所轄の県民局は申請の受付窓口ではありません。
窓口受付時間は9:00〜11:30、13:00〜16:30(閉庁日を除く)。11時30分から13時00分まで、および16時30分から翌開庁日の9時00分までの間は窓口を閉じるとともに審査を休止し、原則として、審査の途中であっても窓口閉鎖の時刻をもって審査は終了します(手引 PDF p.16)。時間的な余裕がある申請等については、郵送による提出も受け付けています(送付先は同じ/手引 PDF p.16)。
7-2. ★事前審査は一切行われない
般特新規のように要件の設計が難しい申請ほど、この運用が効いてきます。
「事前審査は一切行いません。 正本と副本を必要部数作成し、日付の記入、納付済証の貼付等の遺漏がないことを確認し、書類を完全に整えた上で提出(送付)してください。」(手引 PDF p.16)
「とりあえず出してみて、足りなければ言ってもらう」という進め方は成り立ちません。 特定営業所技術者の資格・指導監督的実務経験・財務要件の当てはめは、出す前に決着させておく必要があります。不許可・不受理になりやすいパターンは建設業許可が不許可・不受理になる主な理由に整理しています。
申請書は、閲覧用と非閲覧用に分け、閲覧用3部(正1・副2)+非閲覧用3部(正1・副2)=計6部を提出します(手引 PDF p.15)。記入ミスの訂正は二重線で、ホワイト(修正液・修正テープ等)は使用できません(手引 PDF p.15)。
7-3. 法定手数料の納め方(岡山県のPOS納付)
法定手数料は、岡山県手数料等(POS)納付連絡票をホームページから印刷し、収納専用窓口に持参して支払います。支払い後に納付済証を受け取り、許可申請書の正本非閲覧用の「(様式第1号の)別紙三」に納付済証を貼り付けた上で提出します(手引 PDF p.14)。
| 申請の種類 | 法定手数料(岡山県知事許可) |
|---|---|
| 新規(許可換え含む)・般特新規 | 90,000円 |
| 更新・追加 | 50,000円 |
申請する業種の数とは関係ありません。変更届出書の提出に手数料は不要です(手引 PDF p.14・p.22)。組み合わせによる申請を希望する場合は、納付連絡票を複数組み合わせて使います(手引 PDF p.14)。
7-4. 所轄県民局の営業所調査
申請受付後、半月程度で所轄の県民局から営業所調査実施の連絡が来ます(手引 PDF p.17)。調査で確認されるのは、看板(容易に確認できるもの)・机・電話及びファクシミリ・営業所の賃貸借契約書(原本)等で、営業所は居住部分と共用することはできません。賃貸借契約を締結している場合は、契約書上で営業活動に利用することが認められていることが必要です。手引は「いずれも確認できるものがなければ、許可を受けることができません」としています(手引 PDF p.17)。
なお、営業所調査が終わったからといって本庁における調査が終わっているとは限らず、営業所調査が申請受付後から間もなく実施されたとしても、許可が早く取得できるということはありません(手引 PDF p.16)。申請=本庁、営業所調査=所轄の県民局という役割分担です。
7-5. 期間の目安
- 申請受付から許可まで:特に問題がないケースで概ね2か月程度(手引 PDF p.16)
- 営業所調査の連絡:申請受付後半月程度(手引 PDF p.17)
- 更新申請:有効期間満了の日の30日前までに受付(書類上不備がなく受付印が押印された状態)を済ませる必要があり、有効期間満了の日の3か月前から提出できます(建設業法施行規則第5条/手引 PDF p.13・p.21)
期間は目安であり、書類の整い方や個別の事情によって変動します。 特に般特新規は、財務要件の判定が決算期に拘束されるため、決算をまたぐかどうかで着手時期の意味が変わります。
7-6. ★特定を取ったあとの落とし穴——要件を欠いても自動で一般には戻らない
これは、特定建設業への移行を検討する段階で必ず知っておくべき事項です。手引は次のように書いています(手引 PDF p.12)。
- 特定建設業の取得には一般建設業より高度な技術力・資金力が必要で、これらの要件を確保できなくなった際には特定建設業の許可を維持できなくなる
- この時点で一般許可の要件を満たしていればそれを取得することはできるが、特定の要件を欠いたときに当然に一般許可に移行するものではなく、改めて新規許可申請(別の業種で一般許可を有している場合には追加許可申請)を行う必要がある
- 許可が失効した場合は、その業種については何ら許可を有しない状態となり、経営事項審査も無効となるため、長期間にわたり入札に参加できなくなる可能性があるなど、大きな影響が想定される
特定建設業は「取ったら終わり」ではなく、毎期の決算で財務要件を維持し続ける許可です。 1級相当の特定営業所技術者が退職すれば技術者要件も欠けます(営業所技術者等が退職し後任者がいない場合、当該許可は取り消されます/建設業法第29条第1項第1号・手引 PDF p.8)。下請に出す総額が5,000万円に届く工事が年に1件あるかどうか、という段階の会社が、維持コストまで見込んで特定へ移るべきかは、慎重に判断する価値があります。
7-7. 当事務所にご依頼いただく場合の費用と役割
当事務所の報酬(税込の目安)と法定手数料は次のとおりです。
| 業務内容 | 行政書士報酬 | 法定手数料 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 建設業許可申請(般・特新規) | 110,000円 | 90,000円 | 200,000円 |
| 建設業許可申請(法人・新規) | 132,000円 | 90,000円 | 222,000円 |
| 建設業許可申請(業種追加) | 55,000円 | 50,000円 | 105,000円 |
| 建設業許可申請(法人・更新) | 66,000円 | 50,000円 | 116,000円 |
| 建設業変更届出(事業年度終了報告) | 44,000円 | ― | 44,000円 |
| 変更届(営業所技術者)資格要件 | 22,000円 | ― | 22,000円 |
金額は税込の目安で、案件の内容により変動します。正確な金額は事前にお見積りします。
役割としては、書類作成の代行にとどまらず、代理申請まで行います。 また、所轄県民局による営業所調査の準備確認と当日の同席は報酬に含みます。他事務所から引き継いでのご依頼にも対応します。法定手数料90,000円はご依頼者のご負担ですが、納付は当事務所が代行します。 証明書等の実費は当事務所が立て替え、精算します。
無料相談は方向性の見立てまで(初回30〜60分)とし、資料の精査・要件設計・工程表の作成は受任後に進めます。行政書士登録番号は第20300974号です。
8. 元請になったあと——毎年の維持と、経審・入札への接続
8-1. 工事経歴書の書き方が変わる
元請工事が出てくると、毎年の事業年度終了報告(決算日から4か月以内/手引 PDF p.22)で提出する工事経歴書の書き方が変わります。
岡山県の審査要領は、記載要領の概略を次のように示しています(審査要領 PDF p.8)。
- ア 元請工事について、大きい順に元請工事の7割まで記載(元請工事に係る軽微な工事は10件まで記載すればよい。ただし、土木・建築工事業を除く)
- イ ア以外の元請工事及び下請工事について、当該業種の完成工事高の7割まで大きい順に記載(軽微な工事は10件まで記載すればよい。ただし、土木・建築工事業を除く)
下請専門の会社は「イ」だけを書いてきましたが、元請が出てくると「ア」が先に来ます。 さらに、審査要領は「元請・下請の別の記載は適正に行うこと(公共工事において直接の発注者が建設会社(元請業者)であるのに、『元請』と記載されていないか、など)」と、この欄を名指しでチェック項目に挙げています(審査要領 PDF p.9)。
そのほか、工事経歴書の実務では次の点も確認されます。
- 配置技術者の欄には、法第26条第1項又は第2項により各工事現場に置かれた技術者の氏名と、主任技術者か監理技術者かの別を記載する。施工中に交替があった場合は変更前の者も含む全員を記載し、監理技術者補佐を置いた場合はその旨を記載する(手引 PDF p.48)
- 交替があった場合の技術者名は二段書き(変更前を上段、変更後を下段)にし、余白に交替の年月日を記載する(審査要領 PDF p.9)
- 着工年月日・完成年月は契約書記載の工期ではなく、実際に着手した月・発注者に引き渡した月を記載する(審査要領 PDF p.9)
- JVが元請で受注した工事について、JVの構成員は出資比率に応じた売上を計上すべきところを、誤ってJVからの下請として記載しない(審査要領 PDF p.8)
- 工事経歴書に記載されている工事について、その業種の許可を有していないのに許可が必要な軽微でない工事を受注していた場合には、業務改善報告書を徴した上で申請等を受け付ける(審査要領 PDF p.8)
最後の1点は、元請転換期の会社が最も踏みやすい落とし穴です。 元請として一式で受けた工事のなかに、許可のない専門工事が混ざっていた——という形で、過去の受注が事業年度終了報告の場で表に出ます。 §6-2 の業種の確認を先にやるべき理由がここにあります。
8-2. 元請の実績は、経審・入札への入口になる
建設業法上、公共工事とは「経営事項審査を受けなければ請け負うことができない建設工事」を指し、その発注者は建設業法施行令第45条・建設業法施行規則第18条で定められています(手引 PDF p.192)。元請として公共工事を取りに行くなら、経営事項審査(経審)と入札参加資格が前提になります。
なお、§5-4 で触れたとおり、一括下請負を行った建設業者は、当該工事を実質的に行っていると認められないため、経営事項審査における完成工事高に当該工事の金額を含めることが認められません(手引 PDF p.188)。丸投げは、その工事を経審の売上から落とすことと同じ意味になります。
経審そのものの流れは経審申請を岡山で依頼するならと経営事項審査サービスに、入札参加資格は入札参加資格サービスに、公共工事への入り方の全体像は公共工事に入りたい|建設業許可が入札参加への第一歩に整理しています。
8-3. ★元請実績は「将来の特定建設業」の材料になる
§2-4 で触れた点を、ここで回収します。特定建設業の技術者要件のうち、指導監督的実務経験(様式第10号)は次のように定義されています。
- 【経験となる工事】元請として、4,500万円以上(平成6年12月28日前の建設工事については3,000万円以上、昭和59年10月1日前の建設工事については1,500万円以上)の工事における2年以上の指導監督的実務経験を証明するために用いる(金額は税込/手引 PDF p.85)
- 【指導監督的実務経験とは】発注者から直接請け負った建設工事の設計又は施工の全般について、工事現場主任者又は工事現場監督者のような資格で工事の技術面を総合的に指導監督した経験をいう。建設工事の発注に当たって設計技術者として設計に従事した経験は含まない(手引 PDF p.85)
- 発注者から最初の元請負人として請け負った工事に関する経験のみが対象であり、発注者の側における経験等、営業所技術者等の実務経験として認められる期間であっても、指導監督的実務経験としては認められない(審査要領 PDF p.25)
- 期間は工事の施工期間の合計(月数の積み上げ)で、担当する業種ごとに2年間(24か月間)必要。施工期間の重複は認められない(審査要領 PDF p.25)
- 実務経験証明書(様式第9号)に記載した期間と重複しても構わない(手引 PDF p.85/審査要領 PDF p.25)
- 期間の計算方法は、経験期間から1か月を差し引いた月数をそれぞれ足し上げる(1月〜3月の工事であれば2か月分の計算/手引 PDF p.85)
- 記載は工事請負契約書原本、注文書原本又は請書の写し等に基づいて工事ごとに行い、後日行う県民局調査で原本等を確認する(手引 PDF p.85)
ここでもう一度確認します。この4,500万円は、特定建設業が必要になるラインではありません。 「指導監督的実務経験として計上できる元請工事の規模」です。特定建設業のラインは下請に出す総額の5,000万円(建築一式8,000万円)です(手引 PDF p.6・p.10)。
そのうえで、実務的な含意は大きいものがあります。下請でいる限り、指導監督的実務経験は1件も積み上がりません。 元請として4,500万円以上の工事を回した経験だけが、指定建設業以外の業種で特定建設業へ進むときの技術者要件の材料になります。「いつか特定を取りたい」と考えている会社にとって、元請転換は、資格取得とは別ルートの積み上げの開始点でもあるということです。契約書・注文書・請書の原本の保管は、そのまま将来の申請書類になります。
8-4. 元請になったら増える「届出と期限」
最後に、維持の話です。
- 事業年度終了報告:決算日から4か月以内(手引 PDF p.22)
- 変更届:許可申請書及び添付書類等の内容に変更が生じた場合、指定された期限内に提出。期限内の提出を怠っている場合には許可の更新・追加申請等はできず、監督処分や罰則の対象にもなります(手引 PDF p.22)
- 常勤役員等(経営業務の管理責任者等)・営業所技術者等が欠けた場合:変更後2週間以内に変更届。「欠く」状態には退職・死亡だけでなく、毎日出勤することができなくなった場合も含まれ、長期入院等は社会保険等の資格が継続されていても「欠く」状態とみなされます(手引 PDF p.22)
- 更新:許可の有効期間は許可日から5年間。更新許可申請は有効期間満了の日の30日前までに受付を済ませる(手引 PDF p.21)
- 標識:有効期間満了後・廃業届後は掲示をやめるか記載事項を速やかに修正(手引 PDF p.195)
元請になると、現場数が増え、技術者の配置換えも増えます。届出の発生頻度そのものが上がるということです。期限管理を仕組みにしておく価値は、下請時代より格段に大きくなります。当事務所では、変更届・事業年度終了報告・更新・経審・入札参加資格更新の期限をまとめて管理する顧問契約(月額5,500円(税込)〜の3プラン)をご用意しています。期限管理(いつ何を出すかのご案内)は顧問の範囲、申請の代理実行はスポットの報酬という切り分けです。
異業種から建設業に参入して、最初から元請を目指す場合の順序は異業種から建設業に参入して許可を取るにはに整理しています。
よくある質問(FAQ)
まとめ
「下請から元請になる」ために、新しい許可は要りません。 押さえるべきは次の5点です。
- 許可の要否は立場では動かない。 判定は1件の請負金額(500万円/建築一式1,500万円・延べ150㎡未満の木造住宅)で、元請でも下請でも同じです(手引 PDF p.5)。
- 一般建設業でも自社の請負額に制限はない。 制限がかかるのは下請に出す額で、1件の工事につき合計5,000万円未満(建築一式8,000万円未満)までです(手引 PDF p.6)。
- この水準以上を下請に出して施工するなら特定建設業。 下請契約が2以上あるときは総額で判定します(手引 PDF p.10)。一般建設業者が線を超えて下請に出すことは禁じられています(手引 PDF p.198)。
- 線を超えると、許可とは別の義務が乗る。 監理技術者の別途配置(手引 PDF p.180)、施工体制台帳・施工体系図(手引 PDF p.198)。加えて、元請には工事現場への許可票の掲示(手引 PDF p.21・p.194)と、一括下請負の禁止における「工事全体への実質的関与」(手引 PDF p.186)が課されます。
- 移る前の順序は、①下請に出す総額 → ②業種 → ③技術者の頭数 → ④下請の許可状況 → ⑤財務要件 → ⑥申請(§6)。いちばん時間がかかるのは③の技術者で、いちばん急いでも縮まないのが⑥(受付後 概ね2か月/手引 PDF p.16)です。
そして、混同してはいけない数字がひとつあります。4,500万円は特定建設業のラインではありません。 公共性のある工事で技術者を現場専任にしなければならない規模(手引 PDF p.21・p.181)と、指導監督的実務経験として計上できる元請工事の規模(手引 PDF p.84・p.85)です。
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